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会社員として働いていた頃、日々の意思決定や会議の空気、人間関係のちょっとした緊張感の裏には、言葉にならない「何か」が流れていることを肌で感じていました。

それは目に見えないけれど、確かに人のふるまいを左右し、組織全体の方向すら決めてしまう力でした。

その「何か」の正体をより明確に知りたい—。

そんな想いを胸に起業し、外部の立場でさまざまな企業と関わる中で、私はそれが「企業文化」と呼ばれるものであること、そしてさらに深く見ていくと、それは「人から人へ模倣によって伝えられる情報のパターン」、つまり「ミーム(meme)」によって成り立っていることに気づきました。

全4回シリーズ「変われない組織を変われる組織へー企業文化を因数分解する」、第1回の今回は、企業文化を可視化するための新しいアプローチとしてのミームについて考察していきたいと思います。

あいまいな「企業文化」という言葉

「企業文化」という言葉はよく使われますが、その中身は実にあいまいです。
「うちの会社っぽさ」「空気感」「なんとなくの常識」「暗黙の了解」など、雰囲気として共有されているものの、明確な定義があるわけではありません。

多くの企業が「文化を変えたい」「よい文化を育てたい」と願いながらも、
何を変えるべきかが見えない、成果が測れない、再現できないという壁に直面しています。

この「見えなさ」こそが、文化変革の最大の障壁なのです。

「ミーム」という操作概念

起業した会社で、この課題について何か貢献できないかと探究をはじめました。私たちはこの課題に対して、企業文化を「ミーム」として捉える視点を導入しました。
ミームとは、もともと生物学者リチャード・ドーキンスが提唱した概念で、
模倣を通じて人から人へと伝わる情報の単位、いわば「情報の遺伝子」です。

たとえば:

・会議では本音を言わない

・上司の顔色を読んで動く

・新しいことは「前例がない」と却下される

こうした行動様式は、明示的に教えられたわけではなく、他者のふるまいを模倣する中で、自然と身についていく無意識のパターンです。

私たちはこれらを「文化的ミーム」と呼び、組織内で反復され、共有される情報やふるまいの型、もしくは、文化の構成要素と見なしています。

「文化」という言葉が抽象的すぎて操作・分析が難しい一方で、「ミーム」はその文化を分解可能な単位として捉えるための操作概念です。

つまり、「企業文化とは何か?」という問いに対し、文化は、多数のミーム(情報の遺伝子)の集合体であると捉えることで、
「文化をどう変えるか?」ではなく、「どのミームを変えるか?」と具体的に考えられるようになるのです。

企業文化を形成する4つの軸

それでは、そのミームはどこから生まれ、どう定着するのでしょうか。私たちは、企業文化(=ミーム)が組織の構造的な要因によって規定されていると考え、文化の“設計図”を読み解くためのフレームとして、以下の4つの軸を設定しています。

企業文化を形成する4つの軸

  1. 顧客数(Market Breadth)

・少数の顧客:信頼関係が深く、責任も大きい。慎重さや属人的な対応が求められ、暗黙知が重視される文化に。

・多数の顧客:効率と再現性が求められ、標準化や分業が進む。ルールや手順が文化になる。

  1. 1件あたりの投資規模(Resource Intensity)

・高額投資:判断の責任が重く、全体設計や長期的視野が必要。計画性や綿密さを重んじる文化に。

・低額投資:小回りとスピードが重要。現場の判断力や自律性が求められ、挑戦的な文化が生まれる。

  1. 経営者の権限集中度(Authority Centralization)

・中央集権型:トップダウンで動きが速い反面、属人的な意思決定に依存しやすい。

・分権型:現場に裁量を持たせる。情報共有と合意形成が重視される文化に。

  1. 経営者の性格傾向(Leadership Disposition)

・自己顕示型:自分の意思を強く押し出す。迅速な判断力があるが、柔軟性に欠けることも。

・現場志向型:対話を重視し、環境変化への適応力があるが、意思決定が遅れがち。

事例:成功を支えたミームが変化の足かせになるとき

ある企業は創業期において、

  1. 少数の大手顧客
  2. 高額な設備投資
  3. 中央集権型の組織
  4. 自己顕示型の創業者

という構造を持っていました。

この構造が生んだミームは、「判断は社長」「スピード最優先」「部下は察する」 といったトップダウン型の文化です。

この文化は、創業フェーズで大きな成果をもたらしました。
しかし、時代とともに事業が多角化し、顧客が増え、投資単価が下がったにもかかわらず、
かつてのミームがそのまま残り続けたのです。

血縁の後継者も自己主張が強く、現場の声を聞かずに方針を押し通した結果、
現場との信頼関係は崩れ、組織内でミームが分裂。変化への適応が進まず、組織は停滞していきました。

企業文化を可視化してアップデートする

このように、かつて有効だった文化的ミームが、環境の変化によりむしろ足かせになるという現象は、多くの企業で見られます。

重要なのは、「良い文化をつくる」ことではなく、
「現在の構造に合ったミームにアップデートする」ことです。

その第一歩が、いま自社にどんなミームが根づいているのかを可視化し、構造的に理解すること。
私たちが開発しているツールは、この可視化を支援し、文化変革の足がかりとなるものです。

次回予告:経営者ドリブンの「変われない組織」

次回は、このような構造と文化のミスマッチがどのように起こるのか、
そしてなぜ「文化だけが過去に取り残される」のか、経営者ドリブンの組織についてより具体的なケースをもとに掘り下げていきます。

第2回:事業は変わったのに企業文化は変われなかった—創業者ドリブンが通用しなくなるとき

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