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先日、Webアプリの開発を担当しているビジネスパートナーと何気なく交わした会話が、思いがけず大きな気づきをもたらしてくれました。それは、今私たちの働き方の前提となっている「分業」という仕組みが、AIの進化によって根本から揺さぶられはじめているのではないか、ということです。

日々の業務に追われていると、「自分の仕事の範囲」は暗黙のうちに固定されてしまいがちです。エンジニア、マーケター、デザイナー、会計……それぞれの専門領域を分担することで、組織は効率的に回ってきました。しかし、その「当たり前」が、AIの普及によって少しずつ変化してきているのを感じています。

分業体制のなかで求められてきた専門性とは何だったのか。そして、これからの時代において、私たちはどんな役割を担い、どう働いていくべきなのか。そんな問いが自然と浮かんできたのです。

今回はその対話をきっかけに見えてきた、AIと「分業」のこれからについて考えてみたいと思います。

分業が支えてきた組織のかたち

これまでの組織づくりの基本は、「分業」でした。エンジニアはコードを書き、マーケターは市場を分析し、会計士は財務を管理する――それぞれの分野で専門性を高めることで、全体としての生産性を最大化するという発想です。このモデルの前提には、「専門性は時間をかけて身につけるもの」という考え方があります。数年から十数年かけてスキルを磨き、一人前としての役割を果たしていく。だからこそ、分業体制が一度出来上がると、役割が固定化されやすく、業務範囲も明確に線引きされていました。

しかし今、その構造そのものが崩れつつあります。ビジネスパートナーとの何気ない会話の中で出てきたのは、AIによって、誰もが「専門的な業務に踏み込める実践者」になれる時代が来ているという話でした。

AIが変える「専門性」のあり方

ChatGPTやGitHub CopilotのようなAIツールの登場によって、これまで専門職のみに許されていた領域に、非専門家でも気軽にアクセスできるようになりました。たとえば、プログラミング未経験者が簡単なコードを書けるようになり、分析経験のない人がデータの傾向を読み取れるようになってきています。ノーコードツールやAIアシスタントが、専門知識を「数年かけて身につけるもの」から、「今この場で試せるもの」に変えつつあるのです。実際、マーケターがAIを活用してデータ分析を行ったり、エンジニアがAIの助けを借りながらマーケティング施策の効果を試算したりと、かつての職種の境界線はどんどん曖昧になってきています。

もちろん、専門家が不要になるわけではありません。ただ、彼らの役割は「手を動かす人」から「問いを立て、戦略を描き、AIをどう活用するかを設計する人」へと変化しています。実際に、このブログの冒頭で言及した、経営者やデータアナリストの顔も持つそのビジネスパートナーはこう言っていました。「これからは、自分でコードを書くことよりも、何のためにどんな仕組みをつくるのかを考えることのほうが大事になる。AIをどう使うかではなく、AIをどう活かして組織や社会に意味ある形で組み込むかが、本質的な仕事になっていく。」その言葉に、深く共感しました。

分業崩れると組織はどう変わるのか

こうした変化は、個人の働き方だけでなく、組織の在り方そのものにも影響を及ぼしています。まず、職種の境界が曖昧になり、役割の流動性が高まってきています。「私はマーケターだから、分析は他の人に任せる」というスタンスは、通用しづらくなってきました。むしろ、「自分がどこまでAIを使ってカバーできるか」「どの領域に一歩踏み込めるか」が、その人の仕事の成果や価値を大きく左右するようになっています。

次に、求められるスキルも変わってきています。これからの時代に必要なのは、必ずしも「深い専門性」ではなく、「問題を発見し、AIなどのツールを使って解決する力」。つまり、どんな職種であっても、「問いを立てる力」が重要な価値になるということです。

さらに、分業の境界が曖昧になるからこそ、チームや部署を越えた情報共有・連携の質が問われます。たとえば、マーケティングと開発がそれぞれAIで分析・実行するようになったとき、互いの知識やデータが共有されていなければ、施策の整合性が取れなくなるリスクがあります。

「みんながAIを使う時代」は、「みんなが対話する時代」でもある。そんなことを、今回の対話を通じて改めて実感しました。

おわりに ー これからの組織に必要なこと

AIによって、専門性の習得が加速し、非専門家でも業務をこなせるようになる。この現象は、分業による効率化という、私たちが長年信じてきた常識を大きく揺るがすものです。では、これからの組織に必要なものはどのようなものでしょうか。それは、固定された役割ではなく、状況に応じて柔軟に変化できる「役割の流動性」、そして、AIを使う誰もが共通理解を持ち、相互に補完し合えるようにする「対話の文化」だと思います。

AIという道具の進化はもちろん興味深く、私たちの仕事や日常にこれまでにない可能性をもたらしています。けれども、それ以上に問われているのは、その変化に私たち自身がどう向き合い、どんな姿勢で変わっていけるかということ。

気づかぬうちにテクノロジーに頼りきってしまうのではなく、自分たちが何を大切にし、どう意思を持って関わっていくか――そうした人間としての想像力や対話力、そして意味を見出す力こそが、これからの時代の働き方を形づくっていくのかもしれません。

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