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【シリーズエッセイ(全9回)】意味・意識・AI・人間ーAI時代にマインドフルネスが必要な理由ー

前回、私たちのコミュニケーションには、さまざまな種類のノイズが存在することを確認しました。

今回はさらに深く、なぜ人は「わからない状態」を避けたがるのかを考えていきます。

第4回:なぜ人は情報量を減らしたがるのか? ーモデルと驚きのバランス

私たち人間は、新しい情報に触れると、自然に「理解したい」という欲求が湧きます。
しかし同時に、できるだけ早く、シンプルな理解にたどり着きたいとも願っています。

なぜなら、「わからない」状態は、脳にとって大きな負担だからです。

この現象は、認知負荷理論(Cognitive Load Theory)によって説明されます。この理論によれば、私たちのワーキングメモリには処理できる情報量に限界があり、過度な情報は学習や理解を妨げる可能性があります(Sweller et al., 1998)。

そのため、私たちは無意識のうちに、情報量を減らし、既存の知識と結びつけて理解しようとします。


ここで登場するのが、「モデル」という考え方です。

モデルとは、世界を理解するための自分なりの枠組み、仮説のようなものです。
たとえば、「上司は厳しい人だ」「この道は混む」「〇〇は危険だ」というような、
経験に基づく予測の枠組みが、私たちの頭の中にできあがっていきます。

この考え方は、予測符号化理論(Predictive Coding Theory)によって支持されています。この理論では、脳は常に環境の「メンタルモデル」を生成・更新し、感覚からの入力を予測し、それらを実際の感覚入力と比較することで、予測誤差を最小限に抑えようとすることが示されています(Friston, 2005)。

一度モデルができると、私たちは新しい情報に出会ったとき、
このモデルに照らして、「知っている範囲だ」と安心したり、
「想定外だ」と驚いたりします。


ここで重要なのが、**驚き(サプライズ)**の役割です。

驚きとは、予測していたモデルと、現実の情報とのズレによって生じます。
このとき、私たちは大きく3つの反応を取る傾向があります。

  1. モデルに固執する

    • 「自分の考えは正しい」と信じ、異なる情報を無視する。

  2. モデルを広げる・修正する

    • 「なるほど、こんな見方もあるのか」と受け入れ、柔軟に対応する。

  3. 世界や相手を変えようとする

    • 「相手が間違っている」とみなし、自分のモデルに合わせさせようとする。

この選択が、対話や学び、そして時に対立を生み出す分かれ道となります。


つまり、「情報量を減らしたい」という欲求は、
単に楽をしたいからではありません。
脳の自然な節約メカニズムであり、
エネルギー効率を高めるための工夫なのです。

しかし、それが行き過ぎると、
新しい可能性や、多様な視点に出会うチャンスを失ってしまいます。


本当に豊かなコミュニケーションとは、

  • モデルに頼りすぎず、

  • 驚きを歓迎し、

  • わからなさを少しの間、保留できる力に支えられています。

すぐに答えを求めるのではなく、
「このズレには、どんな意味があるだろう?」と立ち止まること。
それが、私たちの理解を深め、対話を豊かにする第一歩なのです。

次回予告

次回(第5回)では、
「浅い理解と深い理解」について、
すぐに答えを出そうとする危うさと、深く考える力について探っていきます。

ぜひ引き続きご覧ください!

参考文献

Friston, K. (2005). A theory of cortical responses. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 360(1456), 815–836. https://doi.org/10.1098/rstb.2005.1622

Sweller, J., van Merriënboer, J. J. G., & Paas, F. G. W. C. (1998). Cognitive architecture and instructional design. Educational Psychology Review, 10(3), 251–296. https://doi.org/10.1023/A:1022193728205

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