仕事をしていたはずなのに、気づけば別のことを考えていた。資料を読んでいたのに、同じところを何度も読み直している。一つの仕事を始めた直後にメールが気になり、そのまま別の作業に移ってしまう。こうしたことは、多くの人に起こります。

そこで「もっと集中力があれば」と考え、マインドフルネスに関心を持つ人もいるかもしれません。では、マインドフルネスを実践すると、本当に集中力は高まるのでしょうか。

研究を見ると、マインドフルネスに基づく介入によって、持続的注意や実行注意など、注意・認知機能の一部に改善がみられることを支持する研究があります。ただし、「集中力」という一つの能力が単純に高まる、と考えると少し実態から離れます。

私たちの注意には、ある対象に向け続けることだけでなく、注意がそれたことに気づくこと、必要に応じて注意を切り替えること、不要な反応を抑えることなど、複数の働きがあります。マインドフルネスと集中力の関係を理解するには、まず、この「注意」という働きを少し丁寧に見ていく必要があります。

「集中力」は、一つの力ではない

日常では「集中力」という言葉をよく使います。しかし心理学や認知科学では、注意は一つの機能だけで説明されるものではありません。

たとえば、一つの課題に注意を向け続ける持続的注意があります。複数の情報がある中から必要な情報を選ぶ働きもあります。今取り組んでいることとは関係のない反応を抑えたり、必要に応じて注意を別の対象へ切り替えたりする働きもあります。さらに、情報を一時的に保持しながら処理するワーキングメモリなども、仕事や学習に大きく関わります。

そのため、「マインドフルネスは集中力を高めるか」という問いも、研究では、「どの注意機能に対して、どのような変化がみられるのか」という、もう少し細かな問いとして検討されています。

注意がそれること自体は、異常ではない

何かに集中しようとしているときでも、私たちの注意はそれます。文章を読んでいる途中で、今日の予定について考えている。会議中に、さっき届いたメールのことを思い出す。呼吸に注意を向けていたはずなのに、いつの間にか夕食のことを考えている。

このように、注意が目の前の課題から離れ、別の思考へ移っていく現象は、マインドワンダリング(mind wandering)と呼ばれています。研究上の定義にはさまざまな議論がありますが、一般には、注意が現在取り組んでいる課題から離れ、課題とは関係のない思考へ移る現象として研究されています。

マインドワンダリングは、単に「集中力が低い人に起こる失敗」ではありません。人間の心には、自発的にさまざまな思考が浮かぶ性質があります。未来について考える。過去の出来事を振り返る。新しいアイデアを思いつく。こうした働きそのものまでなくす必要はありません。重要なのは、今やろうとしていることから注意がそれたとき、それに気づくことができるかどうかです。

「注意がそれないこと」より、「それたことに気づくこと」

ここは、マインドフルネスを「集中力を高める方法」とだけ捉えないために、とても重要です。

たとえば、呼吸に注意を向ける瞑想をしているとします。最初は呼吸を感じています。しばらくすると、仕事のことを考え始めます。そして、ある瞬間に、「今、仕事のことを考えていた」と気づきます。そこで、再び呼吸へ注意を戻します。

この実践で起きているのは、次のプロセスです。

注意を向ける
注意がそれる
それたことに気づく
注意を戻す
↻ この繰り返しが実践

注意が一度もそれなかったから、うまくできたわけではありません。むしろ、注意がそれたことに気づき、必要な対象へ戻ることまで含めて実践です。

この「自分の注意がどこに向いているかに気づく」という働きは、メタ・アウェアネス(meta-awareness)とも関係します。マインドワンダリング研究でも、単に注意がそれているかどうかだけでなく、本人がそのことに気づいているかどうかが重要な研究テーマになっています。

呼吸を使った実践の具体的な手順については、マインドフルネスのやり方|初心者のための実践ガイドでも紹介しています。

マインドフルネスは、マインドワンダリングを減らすのか

マインドフルネスとマインドワンダリングの関係についても、多くの研究が行われています。2021年のシステマティックレビューでは、24研究が検討されました。研究方法には大きなばらつきがあるものの、一定期間マインドフルネス瞑想を実践した研究の多くで、マインドワンダリングの減少が報告されています。一方で、研究デザインや測定方法が統一されているわけではなく、さらなる検証が必要であることも指摘されています。

また、組織や教育などの実践的な環境で行われた5研究、計304人をまとめた2023年の研究では、4週間のMindfulness-Based Attention Trainingを受けた群で、自己報告によるマインドワンダリングや注意課題の一部に改善が報告されています。ただし、この研究は著者ら自身が「初期段階のproof-of-concept」と位置づけており、より大規模なランダム化比較試験が必要です。

注意点

現時点では、マインドフルネスがマインドワンダリングとの関わり方を変える可能性を支持する研究はあるものの、「雑念がなくなる」と考えるのは適切ではないでしょう。

研究では、どの注意機能に変化がみられているのか

より広く認知機能を見ると、かなり大規模なメタ分析があります。ZainalとNewmanは、マインドフルネスに基づく介入を対象とした111件のランダム化比較試験、計9,538人を統合しました。

その結果、マインドフルネスに基づく介入には、全般的な認知機能に加えて、実行注意、ワーキングメモリの正確性、抑制の正確性、認知的な切り替え、持続的注意、主観的な認知機能などについて、小〜中程度の有意な効果が報告されています。一方で、処理速度、エピソード記憶、一部の実行機能の反応時間などでは明確な効果が確認されませんでした。

つまり、現在の研究からは、「マインドフルネスによって認知能力全般が向上する」というよりも、「注意や認知機能の一部について、改善を支持する研究が蓄積されている」と捉える方が正確です。

なお、2021年に発表された25研究、計1,439人のメタ分析では、注意とワーキングメモリについて有意な効果が確認されず、実行機能についてのみ小さな効果が報告されました。研究の対象や選定基準によって結論が異なることからも、「集中力が上がる」と一言でまとめることの難しさが分かります。

マインドフルネスの効果全体については、マインドフルネスにはどんな効果がある?研究から分かっていることでも詳しく解説しています。

なぜ、マインドフルネスと注意が関係するのか

マインドフルネスには、注意を意図的に向けるという要素があります。代表的な呼吸瞑想を考えてみましょう。呼吸に注意を向ける。別の思考へ注意がそれる。それに気づく。再び呼吸へ戻る。そして、またそれる。このプロセスを繰り返します。

2011年にHölzelらが提案したマインドフルネスの作用機序モデルでも、注意調整(attention regulation)は主要な構成要素の一つとして位置づけられています。ほかに身体感覚への気づき、感情調整、自己への視点の変化などが挙げられています。

ただし、「注意を戻す練習をする→注意を司る脳の部位が鍛えられる→集中力が上がる」といった一直線の説明には注意が必要です。注意には複数の機能があり、瞑想方法も研究対象もさまざまです。ここでは、マインドフルネスの実践そのものに、注意の向きを観察し、必要に応じて戻すプロセスが含まれていると理解する程度が適切です。

「集中できる」とは、ずっと一点だけを見ることではない

仕事で必要な集中も、ずっと一つの対象だけを見続けることではありません。メールを書いているときには、その文章に注意を向ける。会議では、相手の話に注意を向ける。問題が起きたら、状況を確認するために注意を切り替える。必要な資料を探す。再び元の作業へ戻る。

仕事では、注意を維持する能力だけでなく、必要に応じて注意を切り替え、また戻る能力も必要です。

維持する
切り替える
戻る

したがって、「集中できる人」を、「何時間でも一つのことだけに注意を向けられる人」と考える必要はありません。むしろ、今、自分の注意がどこに向いているかに気づき、その場面で必要なところへ注意を向け直せることも、仕事における重要な注意の働きだと考えられます。

仕事の中でのマインドフルネスの活かし方については、仕事とマインドフルネス|働く中で「気づくこと」は何を変えるのかもあわせてご覧ください。

集中が途切れる原因は、自分の内側だけではない

集中できないと、「自分は意志が弱い」「集中力がない」と考えてしまうことがあります。しかし、注意は自分の努力だけで決まるものではありません。

通知が頻繁に届く。チャットへの即時返信を求められる。会議が細切れに入る。複数の仕事を同時に抱えている。周囲から頻繁に声をかけられる。疲労や睡眠不足がある。こうした環境では、注意が分断されるのは不思議ではありません。

こうした職場環境とストレスの関係については、職場ストレスはなぜ生まれる?個人と組織の両面から考えるでも詳しく扱っています。

マインドフルネスによって、自分の注意がそれていることに気づく力を養うことはできます。しかし、集中を妨げる環境そのものをすべて個人のマインドフルネスで補うべきではありません。必要であれば、通知の設定、会議の配置、仕事量、役割分担など、仕事の環境側を見直すことも重要です。

これは、ストレスの場合と同じです。個人の内側に働きかけることと、環境へ働きかけることは、どちらか一方ではありません。

マインドフルネスをすれば、仕事の生産性は上がるのか

「集中力が高まるなら、生産性も上がるのではないか」と考えるのは自然です。ただし、ここは一段階分けて考える必要があります。注意機能の研究で一定の改善が示されていることと、実際の仕事の成果が向上することは同じではありません。

2025年に発表された、職場や大学などで行われたマインドフルネス・プログラムと仕事・課題パフォーマンスに関するシステマティックレビューとメタ分析では、99研究、計16,054人が検討されました。介入を行わない対照群との比較では、課題パフォーマンスに小さな改善が報告されました。しかし、別の積極的な介入を受けた群と比較すると、明確な差は確認されませんでした。また、レビュー全体のエビデンスへの信頼度は「very low」と評価されています。

注意点

したがって、「マインドフルネスを導入すれば社員の生産性が上がる」と企業に説明できる段階ではありません。仕事の成果には、注意だけでなく、知識、技能、情報、チームワーク、意思決定、仕事量、組織構造など、多くの要因が関わっています。

マインドフルネスを仕事に取り入れる意味については、単なる生産性向上だけでなく、より広い視点から考える必要があります。

集中力を上げることより、「注意に気づけること」

マインドフルネスを集中力のトレーニングとして始めること自体に問題はありません。「仕事にもっと集中したい」という動機から始めてもよいでしょう。

ただ、実践を続けていくと、目的は少し広がっていきます。注意がそれないようにするだけではなく、今、何に注意を向けているのか。考え事に入り込んでいるのか。焦りによって次々と仕事を切り替えているのか。疲れているのに無理に集中しようとしているのか。そうした自分の状態にも気づくようになります。

すると、もう一度目の前の仕事へ戻る。少し休む。今は別の課題を優先する。通知を切る。誰かに相談する。といった選択肢も生まれます。

マインドフルネスの価値は、単純に「長く集中できる人になること」だけではありません。自分の注意がどこに向いているのかに気づき、そのとき必要なところへ注意を向け直せること。そこに、仕事や日常生活でマインドフルネスを実践する意味の一つがあります。

まとめ|集中とは、「それないこと」ではなく「気づいて戻ること」

マインドフルネスと注意・認知機能については、研究が積み重ねられています。大規模なメタ分析では、持続的注意、実行注意、ワーキングメモリ、抑制、認知的な切り替えなど、一部の認知機能について改善が報告されています。一方、すべての認知機能に効果が認められているわけではなく、研究によって結果にも違いがあります。

そして、マインドフルネスを理解するときに大切なのは、「注意を一度もそらさないこと」を目指す実践ではないという点です。注意を向ける。それる。それたことに気づく。必要なところへ戻る。この繰り返しが実践です。

仕事でも日常生活でも、私たちの注意が一度もそれないことはありません。

POINT

だからこそ、必要なのは「完璧な集中力」ではなく、今、自分の注意がどこにあるのかに気づき、もう一度選び直せること。マインドフルネスは、そのための一つの実践として捉えることができます。