マインドフルネスというと、自分の呼吸に注意を向けたり、自分の思考や感情に気づいたりする「個人の実践」を思い浮かべる人が多いかもしれません。

一方、組織開発では、一人ひとりの内面だけではなく、人と人との関係、チームで起きていること、組織の文化や仕組みなどにも目を向けます。

一見すると、この二つは別の領域のように見えます。

では、マインドフルネスと組織開発には、どのような接点があるのでしょうか。

ここで最初に注意しておきたいのは、

一人ひとりがマインドフルになれば、組織もよくなる

と単純に考えないことです。

個人が自分の状態に気づけるようになることと、組織そのものが変わることは同じではありません。

それでも、自分の内側で起きていることへの「気づき」を、人との関係やチーム、組織へと広げていくことには大きな意味があります。

この記事では、マインドフルネスと組織開発を無理に一つのものとして扱うのではなく、それぞれの違いを整理しながら、両者がどこでつながり得るのかを考えていきます。

そもそも組織開発とは?

「組織開発」という言葉を聞くと、組織図を変えることや、人事制度を見直すことを思い浮かべるかもしれません。

もちろん、制度や構造を変えることも組織への働きかけの一つです。

ただ、組織開発が扱うものはそれだけではありません。

組織の中では、日々さまざまなことが起きています。

会議では、一部の人だけが発言している。

上司が話すと、ほかの人が黙る。

部署間で同じような対立が繰り返される。

問題が起きても、誰も率直に話そうとしない。

新しい施策を始めても、いつの間にか以前のやり方に戻っている。

こうした現象を、

「発言しない社員が悪い」
「上司のコミュニケーション能力が低い」
「変化を嫌う人がいる」

と個人の問題として説明することもできます。

でも、それだけで本当に十分でしょうか。

組織開発では、個人だけではなく、人と人との関係や、そこで繰り返されているパターンにも目を向けます。

組織で起きていることを「個人の問題」にしすぎない

たとえば、ある社員について、

「報告が遅い」

という問題が起きているとします。

本人に、

「もっと早く報告してください」

と伝えれば、一時的には改善するかもしれません。

しかし、少し視野を広げると別のものが見えてくることがあります。

報告すると上司から細かく問い詰められる。

悪い情報を伝えると責任を追及される。

「自分で考えろ」と言われる一方で、失敗すると叱られる。

その結果、本人は、

「もう少し状況が整理できてから報告しよう」

と考えるようになっていた。

この場合、「報告が遅い」という行動だけを変えようとしても、同じことが繰り返されるかもしれません。

問題は一人の中だけにあるのではなく、本人と上司との「あいだ」でつくられている可能性があるからです。

個人
誰に問題がある?
関係性
あいだで何が起きている?
チーム
何が繰り返されている?
組織
仕組みや文化は?

もちろん、すべての問題を環境や関係性のせいにするという意味ではありません。

個人の行動も重要です。

ただ、

「誰に問題があるのか」だけではなく、「ここでは何が起きているのか」

と問い直してみる。

それが、組織を見る視点を広げる一つの入り口になります。

マインドフルネスは、まず「自分に気づく」ことから始まる

マインドフルネスについては、マインドフルネスとは?意味・効果・やり方をわかりやすく解説で詳しく紹介しています。

マインドフルネスでは、今この瞬間の経験に注意を向けます。

呼吸。

身体の感覚。

浮かんでいる考え。

感情。

周囲から聞こえてくる音。

そして、それらに対して自分がどのように反応しているのか。

たとえば会議で、同僚から自分とは違う意見が出たとします。

その瞬間、

「それは違う」

と思った。

少し腹が立った。

相手の話が終わる前に、反論する内容を考え始めた。

そうした自分の反応に気づく。

気づいたからといって、反対してはいけないわけではありません。

相手の意見が本当に間違っていることもあるでしょう。

ただ、

「私は今、この意見に強く反応している」

と気づくことで、

「なぜ私はこんなに反応したのだろう?」

「相手は実際には何を言っているのだろう?」

と、もう一度状況を見る余地が生まれます。

「自分への気づき」から「関係性への気づき」へ

ここからが、マインドフルネスと組織開発をつなげて考えるうえで重要なところです。

自分の反応に気づくことができると、少しずつ、

「自分と相手の間では、何が起きているのだろう?」

というところにも目を向けられるようになります。

「相手が悪い」から「あいだで何が起きている?」へ

たとえば、

「部下が何も意見を言わない」

と感じている上司がいるとします。

最初は、

「主体性がない」
「もっと自分から発言してほしい」

と思っているかもしれません。

でも、自分自身の関わり方を振り返ってみると、

部下が話している途中で結論を言ってしまう。

提案を聞くと、すぐに問題点を指摘する。

忙しいときには、話しかけにくい雰囲気を出している。

そんなことに気づくかもしれません。

すると、

「部下が発言しない」

という現象が、

「部下の主体性」

だけの問題には見えなくなります。

自分の行動と相手の行動が影響し合いながら、今の関係をつくっているのではないか。

そう考える余地が生まれます。

関係は「どちらか一方」だけでつくられているわけではない

人と人との関係では、相互作用が起きています。

上司が細かく指示する。

すると部下は、自分で判断しなくなる。

部下が判断しなくなる。

すると上司は、

「やはり任せられない」

と思って、さらに細かく指示する。

このように、

Aの行動 → Bの反応 → Aのさらなる反応

という循環が生まれることがあります。

上司が細かく指示する
部下が自分で判断しなくなる
上司が「やはり任せられない」と感じる
さらに細かく指示する
↻ この関わり方が繰り返される

どちらが最初だったのかを決めることが重要とは限りません。

むしろ、

「この関係では、何が繰り返されているのだろう?」

と見ることで、これまでとは違う介入の可能性が見えてきます。

「部下を変える」

だけでも、

「上司を変える」

だけでもなく、

二人の間で繰り返されている関わり方そのものを見る。

これは、個人だけを見る視点から、関係性を見る視点への変化です。

関係性から、チームで起きていることを見る

さらに視野を広げると、二人の関係だけでは説明できないことも見えてきます。

たとえば、あるチームの会議では、いつも同じ3人だけが発言しているとします。

ほかのメンバーはほとんど話しません。

一人ひとりに聞けば、

「特に意見はありません」

と言うかもしれません。

しかし、チーム全体を観察すると、

誰かが新しい意見を出す

経験の長いメンバーがすぐに評価する

議論がそこで終わる

次第にほかの人が意見を出さなくなる

というパターンがあるかもしれません。

ここで、

「もっと積極的に発言しましょう」

と一人ひとりに求めても、状況は変わらない可能性があります。

発言しないことには、チームの中で形成されてきた文脈があるからです。

「人」ではなく「パターン」を見る

組織で問題が起きると、

「誰が原因なのか」

を探したくなることがあります。

もちろん、個人の行動について責任を考える必要がある場面もあります。

しかし、組織の問題を理解するときには、

「誰が悪いか」だけでなく、「何が繰り返されているか」

を見ることが役に立つ場合があります。

個人への問い

誰が悪い?
誰を変える?

関係・システムへの問い

何が繰り返されている?
何がこのパターンを維持している?

会議でいつも同じ人が決める。

問題が起きると誰かを責める。

上司が指示し、部下が待つ。

忙しい人にさらに仕事が集まる。

本音は会議後の雑談でしか出ない。

こうしたものは、一人の性格だけでは説明しきれないことがあります。

組織の中で長い時間をかけて形成された、

「いつものやり方」

になっていることもあるからです。

その「いつものやり方」に気づくことが、変化の入り口になります。

チームから、組織の仕組みへ

さらに視野を広げると、チームで起きていることも、そのチームだけで生まれているわけではないことがあります。

たとえば、

「失敗を隠すチーム」

があったとします。

チームメンバーの意識を変えることも必要かもしれません。

しかし、会社全体の評価制度が、

「失敗した人を強く減点する」

仕組みだったらどうでしょうか。

あるいは、

「短期的な成果だけを評価する」

文化だったらどうでしょうか。

その環境では、失敗を早く共有するより、

「できるだけ問題を小さく見せたい」

という行動が合理的になることもあります。

つまり、目の前の行動には、

個人の考えだけでなく、

役割、ルール、評価制度、権限、組織文化などが関わっている可能性があります。

「気づく対象」を広げていく

ここまでの流れを整理すると、見る対象が少しずつ広がっています。

自分
私は今、何を考え、何を感じ、どう反応している?
関係性
私と相手の間では、何が起きている?
チーム
このチームでは、何が繰り返されている?
組織
それを生み出している仕組みや文化は何だろう?

マインドフルネスと組織開発は同じものではありません。

しかし、自分の内側だけに向けていた注意を、関係性やチーム、組織へと広げていくという点には、一つの接点を見いだすことができます。

「個人がマインドフルになれば組織が変わる」わけではない

ここは、両者を結びつけるときに特に注意したいところです。

組織におけるマインドフルネス研究では、個人の内的なプロセスとしてのマインドフルネスと、社会的・組織的なプロセスとして研究されてきた「collective mindfulness(集合的マインドフルネス)」という異なる研究潮流があります。Sutcliffe、Vogus、Daneによるレビューでも、両者をまたぐ研究の必要性が指摘されています。

また、職場のマインドフルネス研究そのものも発展途上です。2003〜2022年の217本の研究を整理したレビューでは、健康や仕事のパフォーマンスについては比較的多く研究されている一方、チーム・マインドフルネスや異なるレベル間の相互作用などは、今後さらに研究が必要な領域として挙げられています。

つまり、

一人ひとりが瞑想する

一人ひとりがマインドフルになる

関係性がよくなる

組織文化が変わる

という単純な因果関係が確立されているわけではありません。

留意点

個人と職場環境は相互に影響し合っており、タスク、チーム、上司、組織など複数レベルの要因が職場でのマインドフルネスに関係することも報告されています。だからこそ、マインドフルネスを組織で活用するときには、個人への働きかけだけで終わらせないことが重要です。

「集合的マインドフルネス」とは、みんなで瞑想することではない

集合的マインドフルネス(collective mindfulness)は、社員みんなでマインドフルネス瞑想をすることではありません。

組織として、小さな異変や失敗の兆候に気づき、思い込みで決めつけず、状況に応じて柔軟に対応していくあり方を指す概念です。

もともとは、航空管制や原子力、医療など、小さなミスが大きな事故につながり得る組織の研究を背景に発展してきました。

たとえば、

小さな異変を見逃さない。

一つの解釈に決めつけない。

現場で起きていることを丁寧に見る。

想定外の事態に柔軟に対応する。

必要に応じて、その状況に詳しい人の知見を重視する。

といった組織の特徴が注目されています。

つまり、ここでいう「マインドフルネス」は、個人の心の状態というより、組織として状況に注意を向けるあり方を指しています。

なお、近年のレビューでは、集合的マインドフルネスには定義や捉え方にばらつきがあり、さらなる理論的な整理が必要とも指摘されています。

組織開発にマインドフルネスをどう生かす?

では、実際の組織では、マインドフルネスをどのように位置づければよいのでしょうか。

Layでは、マインドフルネスそのものを「組織を変える万能な手法」とは考えていません。

むしろ、組織で起きていることを見るための土台の一つとして捉えています。

まず、自分に気づく

自分は今、何に反応しているのか。

どんな感情があるのか。

どんな前提で相手を見ているのか。

自分の状態に気づく。

次に、相手との「あいだ」を見る

自分がこう言うと、相手はどう反応するのか。

相手がそう反応すると、自分はどうなるのか。

二人の間では何が繰り返されているのか。

さらに、チームを見る

誰が話しているのか。

誰が話していないのか。

どんな意見は歓迎され、どんな意見は出にくいのか。

問題が起きたとき、このチームはどんな反応をするのか。

そして、組織を見る

なぜ、この行動が繰り返されるのか。

評価制度や役割、権限はどう影響しているのか。

この組織では、何が「当たり前」になっているのか。

このように対象を広げることで、

「自分を整えるためのマインドフルネス」から、「自分たちに何が起きているのかを見るためのマインドフルネス」へ

視野を広げることができます。

気づくだけでは、組織は変わらない

ただし、気づくこと自体がゴールではありません。

「このチームでは、上司の意見に反対しにくい」

と気づいた。

それだけでは、状況は変わりません。

次に、

「では、どうしたら違う意見を言いやすくなるだろう?」

と考え、実際に試してみる必要があります。

会議の進め方を変える。

上司が最初に意見を言わない。

全員が一度書いてから共有する。

役割を見直す。

評価制度を変える。

必要な介入は、問題によって異なります。

気づく
対話する
試す
起きたことを見る
また考える
↻ このプロセスを繰り返す

組織の変化は、一度の施策で完成するものではなく、こうしたプロセスを繰り返しながら進んでいくものです。

マインドフルネスを「適応させるための道具」にしない

企業でマインドフルネスを導入するとき、もう一つ注意したいことがあります。

それは、

「つらい環境でも耐えられる社員をつくるための方法」にしないことです。

仕事量が明らかに多すぎる。

ハラスメントがある。

相談しても何も変わらない。

そうした環境で、

「マインドフルネスでストレスに強くなりましょう」

と個人だけに働きかけると、本来組織が扱うべき問題を個人に戻してしまうことがあります。

職場のマインドフルネス研究についても、マインドフルネスが組織のさまざまなレベルに独立して好影響を及ぼすと想定することには慎重であるべきだという議論があります。

マインドフルネスによって自分の状態に気づいた結果、

「私はもっと頑張れる」

ではなく、

「この働き方そのものを見直した方がよいのではないか」

と気づくこともあるでしょう。

それもまた、大切な気づきです。

個人と組織を切り離さずに見る

組織は、人によってつくられています。

でも、組織は単なる「個人の集合」でもありません。

人は組織をつくり、同時に、組織の文化や制度、関係性から影響を受けています。

だから、

「人を変えれば組織が変わる」

だけでも、

「制度を変えれば人が変わる」

だけでも、十分ではないことがあります。

人が環境に影響し、環境が人に影響する。

その相互作用の中で、組織の日常はつくられています。

マインドフルネスによって自分自身に気づくこと。

組織開発によって、人との関係やチーム、仕組みに目を向けること。

二つをつなげて考えることで、

「誰を変えるか」ではなく、「私たちの間で何が起きているのか」

という問いを持つことができます。

「気づくこと」から、組織の変化を考える

マインドフルネスは、自分自身の経験に気づくことから始まります。

でも、仕事をしている私たちは、一人で存在しているわけではありません。

自分の行動は誰かに影響し、相手の反応はまた自分に影響します。

その相互作用が積み重なり、チームの「いつものやり方」が生まれます。

さらに、その背景には組織の制度や文化、歴史があります。

だからこそ、

自分に気づく。
相手との「あいだ」に気づく。
チームで繰り返されていることに気づく。
それを生み出している組織の仕組みに気づく。

そして、必要なら働きかけてみる。

変化が起きたら、また見る。

この記事の中心にある考え方

マインドフルネスと組織開発を同じものとして扱うのではなく、「気づく」という営みを一つの接点として、個人から関係性、チーム、組織へと視野を広げていくこと。

「自分を整える」ことから始まったマインドフルネスが、自分たちの関係や組織を改めて見るきっかけになる。

そこに、マインドフルネスを組織で扱う一つの可能性があると考えています。