マインドフルネスについて調べると、「集中力が高まる」「感情をコントロールできるようになる」「脳が変わる」といった説明を目にすることがあります。
では、マインドフルネスを実践しているとき、私たちの心や脳では実際に何が起きているのでしょうか。
心理学や認知科学では、マインドフルネスと、注意、身体感覚、感情、思考、自己認識などとの関係が研究されています。また、脳科学の発展によって、瞑想中の脳活動や、継続的な実践と脳の構造・機能との関連についても研究が進んできました。マインドフルネスの基本的な考え方については、マインドフルネスとは?意味・効果・やり方をわかりやすく解説でも紹介しています。
ただし、マインドフルネスは「脳のある場所だけを鍛える方法」ではありません。
この記事では、マインドフルネスを注意・身体・感情・思考との関わり方という心理学的な側面から捉え、その背景にある脳科学研究についても見ていきます。
マインドフルネスでは、何をしているのか
たとえば、呼吸に注意を向けるマインドフルネスを考えてみましょう。
呼吸に注意を向けていると、しばらくして仕事や予定について考えていることがあります。そこで、「今、考えごとをしていた」と気づき、もう一度呼吸へ注意を戻します。
一見すると単純なことですが、この短い過程には複数の働きが含まれています。
- 呼吸へ注意を向けること
- 注意がそれたことに気づくこと
- 思考や感情が起きていることを認識すること
- それにすぐ反応せず、もう一度注意を向け直すこと
マインドフルネスを心理学から理解するときには、こうした一連のプロセスを分けて見ることが重要です。
マインドフルネスに関わる4つの心理的な働き
マインドフルネスがどのように作用するのかについては、さまざまなモデルが提案されています。代表的なものの一つが、Hölzelらが2011年に提示したモデルです。このモデルでは、マインドフルネス瞑想に関わる主要な働きとして、次の4つが整理されています。
注意の調整
注意を意図的に向け、それたときに向け直す働き
身体への気づき
身体の内側で起きている感覚に気づく働き
感情の調整
感情が起きていることに気づき、関わり方を変える働き
自己を見る視点の変化
自分の思考や感情の捉え方が変わる働き
※Hölzel et al.(2011)の概念モデルをもとにした整理です。
これは「マインドフルネスをすれば必ずこの4つが改善する」という意味ではありません。むしろ、マインドフルネスという一つの言葉の中に、異なる心理的なプロセスが含まれていることを理解するための枠組みです。
ここから、それぞれを見ていきましょう。
1.注意を向け、注意がそれたことに気づく
マインドフルネスの実践で分かりやすいのが、注意との関係です。
呼吸に注意を向ける。しばらくすると、考えごとをしている。それに気づく。また呼吸へ戻る。
ここでは、注意を一定の対象に向け続けるだけではなく、注意がどこに向いているのかに気づき、必要に応じて向け直すという働きも使われています。
心理学では、注意にもいくつかの側面があります。
- 一定時間、対象へ注意を向け続ける「持続的注意」
- 必要な情報を選び、不要な反応を抑える働き
- 状況に応じて注意を切り替える働き
こうした認知機能とマインドフルネスとの関係について、多くの研究が行われています。
2024年に発表された111件のランダム化比較試験、9,538人を対象としたメタ分析では、マインドフルネスに基づく介入は、持続的注意、実行注意、ワーキングメモリの正確性、抑制や注意の切り替えなど、複数の認知領域で小~中程度の効果を示しました。一方、処理速度やエピソード記憶など、明確な効果が確認されなかった領域もあります。
つまり、「マインドフルネスで集中力が上がる」と一括りにするよりも、注意のどの働きと関係しているのかを見る必要があります。この点については、マインドフルネスで集中力は高まる?注意がそれる仕組みと研究から分かっていることで詳しく解説しています。
実際にこの「注意を向ける→それる→気づく→戻る」というプロセスを短時間で試してみたい方は、仕事中にできる1分マインドフルネス|忙しいときの簡単な実践方法もご覧ください。
2.身体で起きていることに気づく
マインドフルネスでは、呼吸だけでなく、身体感覚にも注意を向けます。
- 胸やお腹が動いている
- 肩に力が入っている
- 心臓が速く打っている
- 身体が温かい、冷たい、重い
こうした身体内部の状態を感じ取ることは、心理学や神経科学では「内受容感覚(interoception)」という概念とも関係します。
私たちは、感情を頭の中だけで経験しているわけではありません。
- 緊張すると身体がこわばる
- 不安になると胸がざわつく
- 怒っていると呼吸が浅くなる
そのように、感情と身体には密接な関係があります。
マインドフルネスでは、こうした身体の変化を「なくそう」とするのではなく、今、身体に何が起きているのかに注意を向けます。
Hölzelらのモデルでも、身体への気づきはマインドフルネスに関わる主要なプロセスの一つとして位置づけられています。
3.感情をなくすのではなく、感情との関わり方が変わる
マインドフルネスは、「ネガティブな感情をなくす方法」と説明されることがあります。しかし、実践していても、不安や怒り、悲しみが起きなくなるわけではありません。
重要なのは、感情が起きたときに、「今、私は怒っている」「不安がある」と、その状態に気づけることです。
たとえば、会議で自分の提案を否定されたとします。その瞬間に、「否定された」と感じ、すぐに反論することもできます。一方、「今、腹が立っている」「身体に力が入っている」と気づけば、感情そのものが消えなくても、すぐに反応する前に少し状況を見る余地が生まれます。
マインドフルネスにおける感情調整は、感情を抑え込んだり、常に穏やかでいようとしたりすることとは異なります。
感情が起きていることに気づき、それとどう関わるか。そこに重要なポイントがあります。
4.「考えていること」に気づく
私たちは日常の中で、さまざまなことを考えています。
- 「あの仕事はうまくいくだろうか」
- 「さっきの発言はまずかったかもしれない」
- 「あの人は自分を評価していないのではないか」
こうした思考が浮かぶこと自体は自然なことです。しかし、考えている最中には、その内容を「現実そのもの」のように感じることがあります。たとえば、「失敗するかもしれない」という思考が浮かんだとき、「失敗する」という事実のように受け取ってしまうことがあります。
マインドフルネスでは、「失敗する」ではなく、「『失敗するかもしれない』と考えている」と、自分の思考そのものに気づくことがあります。
心理学では、自分の認知活動を認識することを「メタ認知」と呼びます。また、自分の思考や感情を、自分そのものや現実そのものと同一視せずに捉えることは、「脱中心化(decentering)」などの概念とも関係します。
メタ認知とマインドフルネスの関係については、メタ認知とは?マインドフルネスとの関係をわかりやすく解説で詳しく扱っています。
こうした思考に巻き込まれ続ける状態は、反芻思考とも関係します。反芻思考とは?考えすぎてしまう仕組みとマインドフルネスで詳しく扱っています。
思考をなくすのではなく、思考している自分に気づく。これは、マインドフルネスを心理学から理解するうえで重要な視点です。
「気づく」と、反応するまでに余地が生まれる
注意、身体感覚、感情、思考。これらに共通しているのは、気づくという点です。
気づいていないとき、私たちは自動的に反応することがあります。
- 不安になったから、避ける
- 腹が立ったから、言い返す
- 焦ったから、確認せずに送信する
- 考えごとに入り込んで、目の前の仕事から注意がそれ続ける
一方、「今、不安を感じている」「言い返したくなっている」「かなり焦っている」と気づくと、その反応を必ず止められるわけではありませんが、次にどうするかを選ぶ余地が生まれることがあります。
このような、状況に応じて行動を柔軟に選ぶことは、「心理的柔軟性」という概念とも関係します。マインドフルネスと心理的柔軟性は同じものではありませんが、両者の関係についても研究が進められています。
脳科学では、何が研究されているのか
では、こうした心理的なプロセスは、脳ではどのように研究されているのでしょうか。
マインドフルネスや瞑想の脳科学研究では、MRIやfMRIなどを用いて、以下のようなことが調べられてきました。
- 瞑想中にどの領域が活動するのか
- 実践経験のある人とない人では何が異なるのか
- 一定期間のトレーニング前後で脳活動や構造に違いがみられるのか
- 脳の複数の領域がどのように連携しているのか
研究では、注意、身体感覚、感情調整、自己に関する情報処理などに関係するさまざまな脳領域やネットワークとの関連が報告されています。
ただし、ここで注意したいことがあります。「マインドフルネスをすると、この脳領域が変わる」と一対一で説明できるほど単純ではありません。
脳は、一つの場所だけで働いているわけではない
「注意は前頭前野」「感情は扁桃体」「マインドフルネスは前頭前野を鍛える」といった説明は、分かりやすく感じられます。しかし、実際の脳の働きはもっと複雑です。
注意することも、感情を経験することも、自分について考えることも、一つの脳領域だけで完結しているわけではありません。複数の領域がネットワークとして相互に関わっています。
2024年に68件の研究を整理したシステマティックレビューでは、特性としてのマインドフルネスと、扁桃体の反応、前頭部や島皮質の構造、デフォルトモードネットワーク内の結合などとの関連が報告されました。一方で、研究によって結果が一致していない領域もあり、著者らは、マインドフルネスについても脳についても単純化した説明から離れる必要があると指摘しています。
「マインドフルネス=この脳部位」と考えるのではなく、複数の脳領域やネットワークが関わる現象として見る必要があります。
瞑想の種類によっても、脳活動は同じではない
もう一つ重要なのは、「瞑想」と呼ばれる実践が一種類ではないことです。
- 呼吸など一つの対象へ注意を向ける実践
- 起きている経験を広く観察する実践
- 言葉や音を繰り返す実践
- 慈悲や思いやりを育む実践
それぞれ、実践していることが異なります。
2026年に発表された機能的神経画像研究のメタ分析では、34研究、700人を対象に、集中型の瞑想、オープンモニタリング、マントラ、慈悲の瞑想という複数の実践が比較されました。その結果、瞑想に共通して関わる脳活動だけでなく、実践の種類によって異なる神経活動のパターンも報告されています。
したがって、「瞑想をすると脳では○○が起きる」とすべての実践を一括りにすることにも注意が必要です。
「脳が変わる」とは、どういうことか
マインドフルネスについては、「瞑想すると脳が変わる」という説明もよく見かけます。
人の脳には、経験や学習に応じて構造や機能が変化する「可塑性」があります。
マインドフルネスについても、継続的な実践と脳の構造や機能の変化との関連が研究されています。しかし、ここでも慎重な理解が必要です。研究によって、対象者、瞑想経験、実践方法、期間、比較条件、測定方法などが異なります。
2025年にMBSRとMRI・fMRI研究を整理したレビューでも、脳機能やネットワークの変化を示す研究がある一方、構造的な変化については結果が一致していないことが報告されています。
また、脳に違いが見つかったとしても、「その変化が何を意味するのか」「どの程度の実践によって生じたのか」「その変化が心理的な効果をどこまで説明するのか」は別に検討する必要があります。
そのため、「毎日○分瞑想すれば、この脳領域が大きくなる」といった単純な説明はできません。
デフォルトモードネットワークとマインドフルネス
マインドフルネスの脳科学でよく登場するものに、デフォルトモードネットワーク(DMN)があります。
DMNは、外部の課題に集中していないときなどに活動する複数の脳領域からなるネットワークで、自分自身について考えることや、自伝的記憶、将来について考えることなどとの関係が研究されています。
マインドフルネスや瞑想とDMNとの関係についても、多くの研究があります。
ただし、「DMN=雑念の脳」「DMNの活動が低いほどよい」と考えるのは適切ではありません。私たちが過去を振り返ったり、未来を想像したり、自分について考えたりすることにも意味があります。
重要なのは、DMNそのものを止めることではなく、注意がどこに向いているのか、それに気づけるかという視点です。
DMNについては、別の記事で詳しく扱います。
脳科学だけでは、マインドフルネスを説明できない
脳科学は、マインドフルネスを理解するための重要な視点を提供してくれます。しかし、脳画像だけを見ても、以下のようなことまで分かるわけではありません。
- その人が何を感じていたのか
- どのような意味を経験に与えたのか
- 日常生活でどのような行動を選ぶようになったのか
- 人との関わり方がどう変化したのか
マインドフルネスは、脳の中だけで起きているものではなく、身体を持ち、環境の中で生活している人の経験でもあります。
だからこそ、脳科学だけでなく、心理学、認知科学、臨床研究、そして本人の経験など、複数の視点から見ることが必要です。
科学的に分かっていることと、まだ分からないこと
マインドフルネス研究は、この数十年で大きく増えてきました。注意や認知機能、ストレス、メンタルヘルス、脳活動など、さまざまな領域で研究が蓄積されています。効果研究全体については、マインドフルネスにはどんな効果がある?研究から分かっていることでも詳しく扱っています。
一方で、研究には課題もあります。
- 「マインドフルネス」という言葉が研究によって異なる意味で使われていること
- 瞑想方法や実践量が異なること
- 自己評価による測定が多いこと
- 研究参加者や比較条件が異なること
- 小規模な神経画像研究も少なくないこと
こうした点から、個々の研究結果をそのまま一般化することには注意が必要です。
マインドフルネス研究の方法論を検討したVan Damらも、2018年に、研究成果を社会へ伝える際の過度な単純化や誇張に注意を促しています。科学的に研究されていることと、すべてが科学的に確定していることは同じではありません。
心と脳を分けすぎない
ここまで「心理学」と「脳科学」を分けて説明してきました。しかし、実際には、以下のような経験と、そのときの脳の働きは、別々に存在しているわけではありません。
- 注意を向ける
- 身体感覚を感じる
- 感情が起きる
- 思考に気づく
心理学は経験や行動の側面からその働きを捉え、神経科学はその背景にある神経活動を調べています。どちらか一方だけが「本当の説明」なのではありません。
脳科学によって説明できればマインドフルネスが科学的になり、心理的な経験は主観的だから価値が低い、ということでもありません。
異なる視点から、同じ人間の経験を見ている。そのように捉える方が、マインドフルネスを理解しやすくなります。
まとめ|マインドフルネスは、一つの「脳の変化」では説明できない
マインドフルネスを実践するとき、私たちは単に「リラックスしている」のではありません。
- 注意を向ける
- 注意がそれたことに気づく
- 身体で起きていることを感じる
- 感情に気づく
- 考えていることに気づく
- そして、必要に応じて注意や行動を選び直す
こうした複数の心理的なプロセスが関わっています。
その背景では、注意、身体感覚、感情、自己に関する情報処理などに関わる、さまざまな脳領域やネットワークについて研究が進められています。
ただし、「マインドフルネスをすると脳の○○が変わる」という一つの説明にまとめることはできません。
心理学から見ること。脳科学から見ること。そして、自分自身で実践し、何が起きているのかを観察すること。それぞれを行き来することで、マインドフルネスをより立体的に理解することができます。
実際に実践してみたい方は、マインドフルネスのやり方|初心者のための実践ガイドもあわせてご覧ください。
