私たちは普段、さまざまなことを考えています。

  • 「この仕事は間に合うだろうか」
  • 「あの人はなぜ、あんな言い方をしたのだろう」
  • 「さっきの判断は間違っていたかもしれない」

考えている最中は、その内容に意識が向いています。しかし、ふと、「自分はずっと同じことを考えているな」と気づくことがあります。

POINT

このとき、私たちは考えの「中」にいるだけではなく、自分が考えていることそのものにも気づいています。

こうした働きを理解するうえで重要になるのが、「メタ認知」という概念です。マインドフルネスとも深い関係がありますが、両者は同じものではありません。マインドフルネス全体の心理学的・脳科学的な位置づけについては、マインドフルネスを脳科学・心理学から理解するでも紹介しています。

この記事では、メタ認知とは何かを整理したうえで、マインドフルネスの実践とどのように関係しているのかを見ていきます。

メタ認知とは、「認知についての認知」

メタ認知(metacognition)

「メタ認知(metacognition)」は、一般に自分自身の認知について知ったり、捉えたり、調整したりする働きを指します。

「認知」には、考える、覚える、注意を向ける、判断するといったさまざまな心の働きが含まれます。その認知について、さらに一段上から捉えるため、「認知についての認知」と説明されることがあります。

たとえば、以下のように気づくことも、メタ認知に関係します。

  • 「この内容は、まだ十分に理解できていない」
  • 「今は集中できていない」
  • 「自分は焦ると、結論を急ぐ傾向がある」
POINT

単に何かを考えるだけではなく、自分がどのように考え、理解し、注意を向けているのかを捉えるところに特徴があります。

メタ認知には、「知っていること」と「調整すること」がある

メタ認知は一つの働きだけを指すわけではありません。古くからのメタ認知研究では、大きく「自分の認知について知っていること」と「自分の認知を確認し、調整すること」などに分けて考えられてきました。

たとえば、以下のようなことです。

  • 「私は一度読んだだけでは覚えにくい」と自分の学習特性について知っていること
  • 勉強しながら「ここは理解できていない」と気づくこと
  • そのため「もう一度読み直そう」と方法を変えること

これらは少しずつ異なる働きですが、いずれもメタ認知に関係します。

注意点

そのため、メタ認知を単に「自分を客観視する能力」とだけ説明すると、その意味の一部しか捉えられません。

マインドフルネスでは、何に気づいているのか

では、マインドフルネスとメタ認知はどのように関係するのでしょうか。呼吸に注意を向ける実践を考えてみます。

最初は呼吸を感じていたのに、いつの間にか、「今日中にあの仕事を終わらせないと」と考えていたとします。しばらくして、「今、仕事のことを考えていた」と気づきます。そして、もう一度呼吸へ注意を戻します。

POINT

ここで重要なのは、仕事について考えていたことそのものではありません。「自分が今、考えていた」ということに気づいたことです。

メタ・アウェアネス(meta-awareness)

自分の心の中で何が起きているのかに気づくことは、「メタ・アウェアネス(meta-awareness)」と呼ばれ、マインドフルネスを理解するうえで重要な概念の一つです。

この記事では、メタ認知に関連して、メタ・アウェアネス、この後で紹介する脱中心化という言葉も登場します。混乱を避けるため、先に3つの関係を整理しておきましょう。

メタ認知

自分の認知について知る・気づく・確認する・調整する、という広い概念

メタ・アウェアネス

今、自分の心で何が起きているのかに気づいていること

脱中心化

思考や感情などの内的経験を、自分自身や現実そのものと同一視せずに捉えること

※これらは重なり合う部分がありますが、すべて同じ意味ではありません。それぞれ、この後の章で詳しく見ていきます。

注意がそれ、それに気づき、また戻すという仕組み自体については、マインドフルネスで集中力は高まる?注意がそれる仕組みと研究から分かっていることで詳しく解説しています。

「考えること」と「考えていることに気づくこと」は違う

たとえば、会議のあとに、「なぜ、あんなことを言ってしまったのだろう」と考えているとします。その理由を整理し、次回どうすればよいかを考えることもできます。

一方で、同じ考えが繰り返されることもあります。

  • 「なぜ言ってしまったのだろう」
  • 「もっと違う言い方ができたはずだ」
  • 「きっと印象が悪くなった」

その最中は、思考の内容に注意が向いています。しかし、ある瞬間に、「さっきから、同じことをずっと考えている」と気づくことがあります。

POINT

問題について考えている状態から、「自分が考え続けている」という状態そのものにも気づいたわけです。この違いは、マインドフルネスを理解するうえで重要です。

考えている
「考えていること」に気づく
別の見方・行動を検討する余地

こうして同じ考えが繰り返される状態は、反芻思考とも関係します。反芻思考とは?考えすぎてしまう仕組みとマインドフルネスで詳しく扱っています。

思考は、「事実」とは限らない

もう一つ例を考えてみましょう。上司から短いメッセージが届きました。「あとで少し話せますか?」それを見て、「何か問題があったのかもしれない」と考えたとします。

さらに、考えが広がっていくこともあります。

  • 「怒られるかもしれない」
  • 「評価が下がったのではないか」
事実と思考の違い

しかし、この時点で分かっている事実は、「あとで少し話せますか?」というメッセージが届いたことだけです。「問題があった」「怒られる」「評価が下がった」は、そこから生まれた思考です。

注意点

もちろん、本当に問題がある場合もあります。

POINT

重要なのは、思考が正しいか間違っているかをすぐに決めることではなく、「今、自分はこう考えている」と、思考を思考として捉えられることです。

「思考から距離をとる」とは、考えないことではない

マインドフルネスの説明では、「思考から距離をとる」という表現が使われることがあります。これは、考えることをやめたり、思考を無視したりするという意味ではありません。

脱中心化(decentering)

心理学では、自分の思考や感情を、自分そのものや現実そのものと同一視せずに捉えることを「脱中心化(decentering)」という概念で説明することがあります。

Bernsteinらは、脱中心化に関わるプロセスとして、以下を整理しています。

  • 自分の内的経験に気づくこと
  • その経験を自分そのものと同一視しないこと
  • 思考の内容にすぐ反応しないこと
私は失敗する
「失敗するかもしれない」という考えが浮かんでいる

※ポジティブな考えへ置き換えるのではなく、思考との関係が変わることを表しています。

考えそのものを消しているわけではありません。考えとの関係が少し変わっています。

メタ認知と脱中心化は、同じものではない

ここまで、メタ認知、メタ・アウェアネス、脱中心化という3つの概念が登場しました。あらためて整理すると、メタ認知は自分の認知について知る・気づく・確認する・調整するという広い概念であり、メタ・アウェアネスや脱中心化は、その中でも関連する概念として位置づけられます(整理はこちら)。これらは重なり合う部分がありますが、すべて同じ意味ではありません。

注意点

マインドフルネス研究でも、こうした概念をどのように定義し、測定するかについて議論が続いています。

マインドフルネスは、メタ認知そのものではない

マインドフルネスとメタ認知には深い関係があります。実際、マインドフルネスをメタ認知的な観点から説明するモデルも提案されています。

よくある誤解

しかし、マインドフルネス=メタ認知と考えるのは単純すぎます。

マインドフルネスには、注意、身体感覚、感情への気づき、受容的な態度など、さまざまな側面があります。また、メタ認知という概念も、マインドフルネスだけに関係するものではありません。学習、記憶、意思決定、問題解決など、幅広い心理学研究で扱われています。

POINT

両者は同じものではなく、メタ認知的な働きが、マインドフルネスを理解する重要な視点の一つであると捉える方が適切です。

マインドフルネスでは、思考の内容を変えることが目的ではない

「自分はこの仕事が苦手だ」という考えが浮かんだとします。そのとき、「そんなことはない。自分はできる」と別の考えに置き換える方法もあります。しかし、マインドフルネスでは、必ずしも思考の内容を別の内容へ変えることを目指しません。

POINT

まず、「自分は今、『この仕事が苦手だ』と考えている」と、その思考が起きていることに気づきます。そして、そのとき身体に何が起きているのか、どんな感情があるのかにも注意を向けることができます。

考えを否定するのでも、信じ込むのでもなく、今どのような経験が起きているのかを見る。そこにマインドフルネスの特徴があります。

気づけば、必ず正しい判断ができるわけではない

では、自分の思考に気づけば、いつでも冷静で正しい判断ができるのでしょうか。もちろん、そうとは限りません。

  • 自分の状態に気づいていても、判断を誤ることはある
  • 感情に気づいていても、強く反応することもある
  • 自分では「客観的に見ている」と思っていても、その見方自体に偏りがあるかもしれない
注意点

メタ認知は、すべてを正確に把握できる「心の監視装置」ではありません。

POINT

大切なのは、気づけば必ず正しくなることではなく、気づくことで別の見方や行動を検討する余地が生まれることです。

仕事の中でも、メタ認知は起きている

メタ認知という言葉を知らなくても、私たちは仕事の中でこうした働きを使っています。たとえば、以下のように気づくことがあります。

  • 「この説明では相手に伝わっていないかもしれない」
  • 「自分は今、結論を急いでいる」
  • 「この人の意見を聞く前から反対しようとしている」
  • 「焦っているので、確認せずに進めようとしている」

こうした気づきがあれば、以下のような別の行動を選ぶこともできます。

  • もう一度説明する
  • 相手の話を聞く
  • 少し確認する
  • 判断を保留する
POINT

もちろん、気づいたからといって必ず行動が変わるわけではありません。それでも、自分が何を考え、どのように反応しようとしているのかに気づくことは、自動的な反応から少し離れるきっかけになります。

仕事の中でのマインドフルネスの活用については、仕事とマインドフルネス|働く中で「気づくこと」は何を変えるのかでも詳しく扱っています。忙しい業務の合間に短時間でこうした気づきを試したい方は、仕事中にできる1分マインドフルネス|忙しいときの簡単な実践方法もご覧ください。

他者との関係を見るときにも役立つ

自分の思考に気づくことは、他者との関係を見るときにも重要です。たとえば、「部下が自分で考えない」と思っている上司がいたとします。その考え自体が正しい場合もあります。

しかし、「自分は、この人を『自分で考えない人』として見ている」と気づけば、「自分の関わり方はどうだろう」という別の問いを持つこともできます。

  • 指示を細かく出しすぎていないか
  • 相手が考える前に答えを与えていないか
  • 質問されたらすぐに解決していないか
POINT

個人についての判断から、自分と相手の間で何が起きているのかへ視野を広げることができます。

注意点

これは、マインドフルネスだけで組織や人間関係の問題が解決するという意味ではありません。

ただ、自分自身の見方や反応に気づくことは、関係性を考えるための一つの入口になります。個人の気づきから関係性・組織の視点へ広げる考え方については、マインドフルネスと組織開発|「個人を整える」から「関係性と組織を見る」へでも詳しく扱っています。

研究では、どこまで分かっているのか

メタ・アウェアネスや脱中心化は、マインドフルネスの作用を説明する重要な候補として研究されています。

2019年にDunneらは、メタ・アウェアネスが多くのマインドフルネス実践にとって重要であり、脱中心化や、思考を「現実そのもの」ではなく心の中で起きている出来事として経験することにも関わると論じています。

また、2022年のシステマティックレビューとメタ分析では、不安・抑うつを対象としたアクセプタンスおよびマインドフルネスに基づく介入について、マインドフルな注意、脱中心化、受容が症状変化を媒介する可能性が検討されました。全体として小~中程度の媒介効果が報告されましたが、時間的な順序を考慮した分析では明確な効果が確認されず、どのプロセスが特に重要なのか、因果関係をどこまで説明できるのかについては限界があります。

注意点

つまり、「マインドフルネスはメタ認知を高め、それによって効果が生じる」と単純に確定できる段階ではありません。

一方で、自分の注意や思考に気づくこと、思考との関係が変わることは、マインドフルネスの仕組みを理解するうえで重要な研究テーマになっています。

まとめ|「何を考えているか」だけでなく、「考えていること」に気づく

私たちは、考えることによって問題を解決し、計画を立て、判断しています。考えること自体が問題なのではありません。

ただ、ときには、以下のようなことがあります。

  • 同じことを何度も考えている
  • 一つの見方にとらわれている
  • 自分の考えを事実だと思っている
  • 感情に動かされて、すぐに反応しようとしている
POINT

そのとき、「今、自分は何を考えているのだろう」と気づくことができれば、自分の思考や反応を少し違う位置から見ることができます。

まとめ

マインドフルネスは、正しい考え方を教えるものではありません。思考をなくすものでもありません。何を考えているかだけではなく、今、自分が考えているということにも気づく。メタ認知という視点は、マインドフルネスで行っていることを理解するための一つの手がかりになります。

実際に呼吸への注意を通じてこうした気づきを練習する方法については、マインドフルネスのやり方|初心者のための実践ガイドで紹介しています。