「ボディスキャン」という名前を聞くと、身体の異常を探したり、全身をリラックスさせたりする方法を想像するかもしれません。

マインドフルネスにおけるボディスキャンで行うことは、もう少しシンプルです。足、脚、お腹、胸、手、肩、顔など、身体の各部分へ順番に注意を向け、そのとき実際に感じられている感覚に気づいていく。それが基本です。

温かい。冷たい。重い。軽い。服が触れている。床に押されている。少し痛い。あるいは、特に何も感じない。それらをすぐに変えようとせず、まず今どんな感覚があるのかを確かめていきます。

マインドフルネス実践全体の基本については、マインドフルネスのやり方|初心者のための実践ガイドでも紹介しています。

ボディスキャンとは?

ボディスキャンは、身体の各部分へ順番に注意を向け、その瞬間の身体感覚に気づいていくマインドフルネスの実践です。MBSR(マインドフルネスストレス低減法)でも用いられてきた代表的な実践の一つです。

呼吸瞑想では呼吸を主な対象にしますが、ボディスキャンでは足先から頭までなど、注意を向ける場所を少しずつ移していきます。

たとえば足の裏へ注意を向けます。床や布団に触れている感覚、温度、圧迫感、脈打つ感じ、かすかな刺激。しばらく観察したら、足首、ふくらはぎ、膝へと注意を移します。

POINT

ボディスキャンでは「身体について考える」のではなく、「今ある身体感覚に注意を向ける」ことを練習します。

ボディスキャンは、リラックスするための方法?

ボディスキャンをすると、結果として身体がゆるんだり、眠気を感じたり、落ち着いたりすることがあります。ただし、リラックスすること自体をゴールにする必要はありません。

たとえば肩の緊張に気づいたとき、「肩が緊張しているから、ゆるめなければ」とすぐ変えようとするのではなく、「肩のあたりに硬さがある」と、まずそのまま確かめます。自然に力が抜けることもあれば、変わらないこともあります。

変えることを先にする

「緊張しているから、すぐゆるめよう」と状態の変化を目標にする。

まず気づく

「ここに硬さがある」と、今ある感覚をそのまま確かめる。

POINT

「心地よい身体に変える」のではなく、「今の身体では何が起きているかに気づく」。これがボディスキャンの基本です。

身体感覚とは、どんなもの?

「身体感覚に注意を向けてください」と言われても、何を感じればよいのか分からないことがあります。特別な感覚を探す必要はありません。

椅子と背中が触れている圧力、足の裏が床に触れている感覚、服が肌に触れている感覚、呼吸に伴ってお腹が動く感覚、手の温度、肩の張り、鼓動なども身体感覚です。

チクチクする、ピリピリする、重い、軽い、温かい、冷たい、動いている、締めつけられている、といった感覚が現れることもあります。そして、「よく分からない」「ほとんど何も感じない」ということもあります。

それも、その瞬間の経験です。何かを感じなければボディスキャンにならないわけではありません。

ボディスキャンを実践してみる

最初から長時間行う必要はありません。まずは5〜10分程度でも構いません。仰向けに寝ても、椅子に座ってもできます。寝ると眠ってしまいやすい人や、横になることに落ち着かなさを感じる人は、座って行ってもよいでしょう。

  1. 楽に保てる姿勢をとる
    目は閉じても、薄く開けても構いません。「正しい姿勢」に固定しようと頑張る必要はありません。
  2. 身体が支えられている感覚に気づく
    床、椅子、布団などと身体が接している場所を感じます。
  3. 一つの場所へ注意を向ける
    たとえば足先から始め、温度、圧力、接触、動きなど、今感じられるものを確かめます。
  4. 順番に注意を移していく
    足先から足首、脚、骨盤、お腹、胸、手、腕、肩、首、顔、頭などへゆっくり移します。順番に絶対的な決まりはありません。
  5. 注意がそれたら、気づいて身体へ戻る
    仕事や予定について考えていたことに気づいたら、失敗と評価せず、今観察していた身体の場所へ注意を戻します。
  6. 最後に身体全体を感じる
    一つひとつの部分ではなく、座っている、あるいは横になっている身体全体を少し感じてから終えます。

途中で考えごとをしても問題ありません。「今、考えていた」と気づいたら、そこから身体感覚へ戻ります。瞑想中の雑念については、瞑想中に雑念が浮かぶのはなぜ?でも詳しく解説しています。

身体感覚がよく分からないときは?

ボディスキャンをすると、「足に注意を向けても、何も感じない」ということがあります。そこで、感覚を作ろうと頑張る必要はありません。

足の裏と床の接触、手と服が触れている場所、椅子に押されている背中など、比較的分かりやすい感覚から始める方法があります。

また、「右手の中を感じよう」とするより、「温度は感じるだろうか」「何かに触れているだろうか」「圧力はあるだろうか」と静かに確かめてみることもできます。

POINT

ボディスキャンは、身体感覚をうまく当てるテストではありません。感じられるものを、感じられる範囲で観察します。

痛みや不快感がある場所は、じっと観察しなければいけない?

その必要はありません。痛みや強い不快感がある場所へ注意を向けると、感覚がより強く感じられる場合もあります。

「逃げずに観察しなければ」「不快感を受け入れなければ」と無理をすることは、マインドフルネスの目的ではありません。

強すぎると感じたら、その場所から注意を離して構いません。足の裏など比較的安定して感じられる場所へ注意を移す、目を開けて周囲を見る、外の音へ注意を向ける、実践そのものを中止するといった選択肢があります。

実践の考え方

注意をどこに向けるかを選べることも、実践の一部です。

ボディスキャンと「内受容感覚」の関係

身体の内部の状態を感じ取る働きは、心理学や神経科学では「内受容感覚(interoception)」という概念で研究されています。呼吸、心拍、内臓の状態など、身体内部から生じる信号をどのように感じ、認識するかに関わる概念です。

ボディスキャンでは身体へ注意を向けるため、内受容感覚との関係が研究されることがあります。ただし、「ボディスキャンをすると、身体感覚を正確に読み取れるようになる」と単純に言うことはできません。

2025年のメタ分析では、29のランダム化比較試験を対象に、マインドフルネスを含む介入後の自己報告による内受容感覚に小〜中程度の改善が示されました。一方、これはボディスキャン単独の効果を示したものではありません。

また、客観的な課題で測った身体感覚の正確さを扱った2025年のメタ分析では、小さな正の関連が示された一方、研究間のばらつきや測定方法の課題が大きく、効果の大きさや方向にはかなりの不確実性が残ると結論づけられています。

POINT

ボディスキャンは「身体感覚を鋭くする訓練」とだけ捉えるより、身体から生じている経験へ注意を向け、その経験に気づく練習と考える方が適切です。

身体感覚は、感情に気づく手がかりにもなる

出来事をどう受け取ったかによって、感情だけでなく身体にも変化が起こることがあります。たとえば仕事で予想外の指摘を受けたとき、胸が詰まる、呼吸が浅くなる、肩に力が入る、といった反応が現れることがあります。

出来事、解釈、感情、身体反応、行動は実際には相互に影響し合っています。その中で、身体の変化は「今、自分の中で何かが起きている」と気づく一つの手がかりになります。

内受容感覚と感情調整に関するレビューでも、身体内部の状態への気づきと感情調整との関連が報告されています。ただし、ボディスキャンを行えば自動的に感情マネジメントが上手になる、という単純な因果関係が確立しているわけではありません。

POINT

身体感覚に気づくことは、反応が強くなる前に自分の状態の変化を捉え、すぐに反応する以外の選択肢を持つきっかけになり得ます。

仕事の場面での「反応」と「応答」については、「反応する」と「応答する」は何が違う?職場の対話とマインドフルネスでも扱っています。

ボディスキャンには、どんな効果がある?

ボディスキャン単独の効果を調べた研究もあります。Ganらが2022年に発表したシステマティックレビュー・メタ分析では、14の研究が検討されました。

受動的な対照群と比べると、マインドフルネスの指標には小さな改善が示されました。一方で、健康に関するさまざまなアウトカムを改善する効果については、ボディスキャン単独で十分な結果は得られていませんでした。研究の質が低いことや、研究間のばらつきが大きいことも指摘されています。

POINT

「ボディスキャンをすればストレスが減る」「睡眠が改善する」と一律に考えるのではなく、マインドフルネスを構成する実践の一つとして捉えるのが妥当です。

マインドフルネス全般の効果と研究上の限界については、マインドフルネスにはどんな効果がある?研究から分かっていることでも整理しています。

ボディスキャンがつらく感じられることもある

身体へ注意を向けることが、誰にとっても心地よいとは限りません。身体感覚への注意によって、不安や痛みが強く感じられたり、過去の経験を思い出したりする人もいます。

瞑想やマインドフルネスは一般にはリスクの少ない実践と考えられていますが、不快な経験や有害事象が報告されることもあります。安全性についての研究も継続しています。

無理に続けない

実践中につらさや強い不安を感じた場合には、目を開ける、周囲を見る、外の音を聞く、身体への注意をやめる、立ち上がるなどの対応をして構いません。

精神的な不調やトラウマに関連した症状がある場合には、自分だけで長時間の実践を続けず、必要に応じて医療・心理の専門家や、適切な経験を持つ指導者に相談してください。

ボディスキャンは、「身体を感じられるようになる」ためだけではない

私たちは日常生活の中で、身体からさまざまな情報を受け取っています。肩に力が入っている。呼吸が浅くなっている。お腹が空いている。疲れている。手に力を入れている。

しかし、何かに集中していたり、考えごとに入り込んでいたりすると、それらにしばらく気づかないこともあります。

ボディスキャンでは、身体の場所を一つずつたどりながら、注意を身体へ向け直します。そこで重要なのは、身体の感覚をたくさん見つけることではありません。

共通する実践の構造

呼吸瞑想でもボディスキャンでも、「注意を向ける」「それたことに気づく」「必要に応じて戻る」という基本的な構造は共通しています。

日常の短い実践については、仕事中にできる1分マインドフルネスも参考にしてください。

まとめ|身体を変える前に、今の感覚に気づいてみる

ボディスキャンは、身体の各部分へ順番に注意を向け、今そこにある感覚を観察していく実践です。

温かさや圧力を感じることもあれば、何も感じないこともあります。心地よいことも、不快なこともあります。それらを特定の状態へ変えることが第一の目的ではありません。

POINT

ボディスキャンは、身体を「正しく感じる」ための試験ではなく、身体感覚を含む今の経験へ注意を向けてみる練習です。

注意が考えごとへ移っていたら、そのことに気づいて身体へ戻る。そこからまた実践を続けることができます。