マインドフルネスを初めて実践するとき、よく使われるのが「呼吸」です。
呼吸に注意を向けると聞くと、「深く呼吸すればいいの?」「呼吸だけに集中するの?」「考えごとが浮かんだら失敗?」と思うかもしれません。
呼吸瞑想では、基本的に呼吸を特別なものに変える必要はありません。今、自然に起きている呼吸に注意を向けます。そして、注意が考えごとや音などへ移っていたことに気づいたら、もう一度呼吸へ戻ります。
呼吸に注意を向ける → 注意がそれる → それたことに気づく → 呼吸へ戻る。この繰り返しが、呼吸瞑想の基本です。
この記事は、マインドフルネスのやり方|初心者のための実践ガイドで紹介している実践方法の一つを、詳しく取り上げるものです。マインドフルネス全体の考え方については、マインドフルネスとは?意味・効果・やり方をわかりやすく解説でも紹介しています。
呼吸瞑想とは?
呼吸瞑想は、呼吸に伴って生じる身体の感覚に注意を向ける瞑想です。
たとえば、以下のような感覚があります。
- 鼻を空気が通る感覚
- 胸が動く感覚
- お腹が膨らんだり縮んだりする感覚
どこに注意を向けなければならないという決まりはありません。自分にとって感じ取りやすい場所を一つ選びます。
大切なのは、「正しい呼吸」をすることではなく、今起きている呼吸を感じることです。
呼吸瞑想の前提となる「マインドフルネスとはどういう意味か」については、マインドフルネスとはどういう意味?「今ここに気づく」をわかりやすく解説で紹介しています。
また、瞑想とマインドフルネスがどのような関係にあるのかについては、マインドフルネスと瞑想の違いとは?それぞれの意味と関係をわかりやすく解説で整理しています。
「呼吸法」と「呼吸瞑想」は同じではない
「呼吸瞑想」という言葉から、ゆっくり息を吸ったり、長く吐いたりする呼吸法を想像する人もいるかもしれません。しかし、この記事で紹介する呼吸瞑想では、基本的に呼吸そのものをコントロールしません。
深くしようとしなくても構いません。ゆっくりにしようとしなくても構いません。一定のリズムにする必要もありません。
浅ければ、浅い呼吸を感じます。速ければ、速い呼吸を感じます。途中で変化したら、その変化にも気づきます。
呼吸そのものを意図的に変える実践(例:速さ・深さ・長さなど)
自然な呼吸を注意を向ける対象として観察する
呼吸を「整える」のではなく、今の呼吸がどうなっているかを観察する。ここが、呼吸を意図的に変える呼吸法と、呼吸を注意を向ける対象とする瞑想との大きな違いです。
呼吸瞑想をやってみる
ここから、実際に呼吸瞑想をしてみましょう。最初は3分程度でも構いません。
1.姿勢を整える
椅子に座っても、床に座っても構いません。椅子の場合は、足の裏を床につけます。
背筋は、無理にピンと伸ばす必要はありません。身体を支えられる、安定した姿勢をとります。手は、膝や腿の上など、楽な場所に置きます。
目は閉じても、開けたままでも構いません。開けている場合は、少し前の床などに視線を置きます。
2.身体がここにあることを感じる
すぐに呼吸へ向かわず、まず身体の感覚を少し感じてみます。足が床に触れている。身体が椅子に支えられている。手が腿に触れている。
今、自分がここに座っていることを、身体の感覚から確かめます。
3.呼吸に注意を向ける
次に、呼吸へ注意を向けます。呼吸を変える必要はありません。ただ、「吸っている」「吐いている」ということを感じてみます。
鼻の穴を出入りする空気の流れ、膨らんだり縮んだりする胸やお腹を動きを感じてみるのもいいでしょう。呼吸に伴う感覚を感じやすい場所を一つ選び、そこに注意を置きます。
4.呼吸の感覚を観察する
一回の呼吸を感じてみます。息を吸うとき、どんな感覚があるでしょうか。吐くときには、どう変わるでしょうか。呼吸と呼吸のあいだには、何か感じられるでしょうか。
「もっと深くしよう」「きれいに呼吸しよう」とする必要はありません。そのとき起きている呼吸を、そのまま観察します。
5.注意がそれたことに気づく
しばらくすると、別のことを考えているかもしれません。今日の予定。仕事のこと。さっきの会話。これからしなければならないこと。周囲の音に注意が向くこともあります。身体の別の感覚が気になることもあります。
それは失敗ではありません。人の注意は動きます。
大切なのは、「呼吸から注意がそれていた」と気づくことです。
6.もう一度、呼吸へ戻る
注意がそれていたことに気づいたら、もう一度、呼吸の感覚へ注意を戻します。「考えてはいけない」と考えごとを追い払う必要はありません。「また集中できなかった」と評価する必要もありません。
気づいたら、戻る。またそれたら、気づく。そして、また戻る。それを繰り返します。
7.実践を終える
時間が来たら、すぐに立ち上がらず、身体全体の感覚へ少し注意を広げます。足が床に触れている感覚。椅子に座っている感覚。周囲の音。
目を閉じていた場合は、ゆっくり開きます。そして、普段の活動へ戻ります。
呼吸に集中できなくても大丈夫?
呼吸瞑想をすると、「全然集中できませんでした」という感想がよく出てきます。数分の間に何度も考えごとをしていた。ほとんど呼吸を感じていなかった。気づいたら、ずっと別のことを考えていた。
そうすると、「瞑想ができなかった」と思うかもしれません。
しかし、呼吸瞑想は、呼吸だけに注意を固定し続けることを目指すものではありません。注意がそれる。それに気づく。戻る。このプロセスそのものが実践に含まれています。
呼吸から注意が「それなかったか」ではなく、「それたことに気づいたか」。そう考えると、呼吸瞑想の見え方が少し変わります。
考えごとは、止めなくていい
「瞑想をすると、頭を空っぽにできますか?」という質問もよくあります。呼吸瞑想は、考えごとをなくす練習ではありません。
瞑想中にも、考えは浮かびます。「このあと何をしよう」「さっきの言い方はよくなかった」「あの仕事は間に合うだろうか」と考えることもあります。
そのとき、「考えてはいけない」と考えを消そうとするのではなく、「あ、考えていた」と気づきます。そして、もう一度呼吸へ戻ります。
考えが浮かぶことと、考えの中に入り込んでいることは同じではありません。考えている自分に気づくことも、マインドフルネスの実践の一部です。
自分の思考そのものに気づく働きについては、メタ認知とは?マインドフルネスとの関係をわかりやすく解説でも詳しく扱っています。
呼吸を「うまく感じられない」ときは?
呼吸の感覚がよく分からないこともあります。その場合も、無理に細かな感覚を探す必要はありません。まずは、「吸っている」「吐いている」と分かる程度でも構いません。
あるいは、お腹や胸に手を置くと、動きを感じやすくなることがあります。それでも分かりにくければ、呼吸にこだわる必要はありません。足の裏が床に触れている感覚や、手が腿に触れている感覚など、別の身体感覚へ注意を向けることもできます。
呼吸に注意を向けると、苦しくなることもある
呼吸は、マインドフルネス瞑想でよく使われる注意を向ける対象ですが、誰にとっても常に使いやすいとは限りません。呼吸へ注意を向けることで、以下のようなことが起こる場合もあります。
- 息苦しさが気になる
- 不安が強くなる
- 呼吸をうまくしなければならないように感じる
そのようなときに、無理に呼吸へ注意を向け続ける必要はありません。以下のような、別の対象へ注意を向けることもできます。
- 足裏の感覚
- 手が触れている感覚
- 周囲から聞こえてくる音
- 目に入ってくるもの
また、強い不安や苦痛を感じる場合は、実践を中断して構いません。
呼吸は、マインドフルネスで使える注意を向ける対象の一つです。呼吸でなければならないわけではありません。
なぜ呼吸が使われるのか
呼吸は、瞑想において、注意を向ける対象として広く用いられています。
2025年に公表されたfocused attention meditation(集中瞑想)の神経生理学研究に関するscoping systematic reviewでは、対象となった52の独立した研究のうち、41研究で呼吸感覚が注意を向ける対象として使われていました。
呼吸は、特別な道具を必要とせず、今この瞬間にも起きていて、身体の感覚として観察できます。そのため、注意を向ける対象として使いやすいものの一つです。
ただし、呼吸そのものに特別な力があると考える必要はありません。集中瞑想では、身体感覚や視覚的な対象、音など、呼吸以外の対象が使われることもあります。
重要なのは、注意を向ける対象を持ち、注意がそこからそれたことに気づき、もう一度戻るというプロセスです。
呼吸瞑想では、何が起きているのか
呼吸瞑想を非常にシンプルにすると、呼吸に注意を向ける → 注意がそれる → それたことに気づく → 呼吸へ戻るという流れになります。
集中瞑想(focused attention meditation)の研究でも、特定の対象へ注意を向け、注意がそれたときに対象へ再び注意を向けることが、実践の中心的なプロセスとして扱われています。注意がそれることや、注意を戻す仕組みについては、マインドフルネスで集中力は高まる?注意がそれる仕組みと研究から分かっていることでも詳しく扱っています。
ただし、ここから、「呼吸瞑想をすれば集中力が高まる」「注意力が鍛えられる」と単純に結論づけることには注意が必要です。
たとえば、2023年に行われた二つのランダム化比較試験では、短期間のマインドフルな呼吸瞑想を、漸進的筋弛緩法やポッドキャストを聴く条件と比較しましたが、実行機能についてマインドフルネスに特有の改善は確認されませんでした。
瞑想の研究では、実践の種類、期間、経験、比較対象、測定方法などによって結果が異なります。そのため、呼吸瞑想を「短時間で認知能力を高める方法」として捉えるより、まずは、自分の注意が今どこにあるのかに気づく実践として経験してみる方がよいでしょう。
何分くらいやればいい?
「何分やれば効果がありますか?」と考えるかもしれません。しかし、「○分行えば効果が出る」という一つの基準があるわけではありません。
初めてなら、まず1〜3分程度から試しても構いません。慣れてきたら、5分、10分と時間を取ることもできます。重要なのは、長時間続けること自体を目標にしないことです。
3分間の実践でも、注意がそれる。気づく。戻る。ということは何度も起こります。
短い時間から日常に取り入れる方法については、仕事中にできる1分マインドフルネス|忙しいときの簡単な実践方法でも紹介しています。
「うまくできたか」を評価しすぎない
瞑想を始めると、「今日は集中できた」「今日は雑念ばかりだった」「昨日よりできなかった」と評価したくなることがあります。
もちろん、自分の実践を振り返ること自体が悪いわけではありません。ただ、「呼吸に集中できた時間」を成績のように捉えると、注意がそれるたびに、「また失敗した」と感じやすくなります。
注意がそれていることに気づいたなら、その瞬間に、すでに今起きていることへ気づいています。そこでまた呼吸へ戻れば、実践は続いています。
瞑想は、注意が対象から「それないこと」を競うものではありません。
まとめ|それたら、気づいて、戻る
呼吸瞑想の方法は、とてもシンプルです。呼吸に注意を向ける。注意がそれる。それたことに気づく。もう一度、呼吸へ戻る。そして、またそれる。また気づく。また戻る。
考えごとをなくす必要はありません。深い呼吸をする必要もありません。ずっと集中し続ける必要もありません。
呼吸は、今起きていることに気づくために使うことのできる、一つの注意を向ける対象です。
呼吸から注意がそれたら、気づいて、戻る。まずは数分、その繰り返しを経験するところから始めてみてください。
