瞑想を始めると、多くの人が気づくことがあります。「こんなにいろいろ考えていたんだ」

呼吸に注意を向けていたはずなのに、気づけば仕事のことを考えている。少し前の会話を思い出している。今日の予定を考えている。周囲の音が気になっている。

そして、「全然集中できない」「雑念ばかり浮かぶ」「自分は瞑想に向いていないのでは」と思うことがあります。

けれども、注意がそれること自体を、瞑想の失敗と考える必要はありません。

POINT

マインドフルネスの実践では、注意がそれていたことに気づくことも大切なプロセスの一つです。

この記事は、マインドフルネスのやり方|初心者のための実践ガイドで紹介している内容のうち、瞑想中に注意がそれることについて詳しく取り上げるものです。

瞑想をすると、なぜ「雑念」が気になるのか

瞑想を始めたから、急に考えごとが増えたのでしょうか。必ずしもそうとは限りません。

普段の生活でも、私たちの頭の中にはさまざまな考えが浮かんでいます。仕事をしながら、「あとでメールを返さなければ」と思う。電車に乗りながら、昨日の出来事を思い出す。人の話を聞きながら、次に自分が何を言うか考えている。こうしたことは日常的に起きています。

瞑想では、呼吸や身体感覚など一つの対象へ注意を向けるため、そこから注意が離れたことに気づきやすくなります。その結果、「こんなに雑念が多い」と感じることがあります。

POINT

考えごとが急に増えたというより、それまで気づいていなかった心の動きに気づいている場合もあります。

「雑念」と呼んでいるものは、何だろう

「雑念」という言葉には、少し注意が必要です。「雑」という字が入っているため、不要な考え。邪魔な考え。なくした方がよいもの。という印象を持ちやすいからです。

しかし、瞑想中に浮かぶ考えには、今日の予定。仕事上の問題。誰かとの会話。昔の記憶。将来への心配。ふと思いついたアイデア。など、さまざまなものがあります。

考えること自体が悪いわけではありません。日常生活では、考えることによって計画を立てたり、問題を解決したり、未来を想像したりしています。

POINT

大切なのは、考えが浮かんでいるかどうかではなく、今、自分の注意がどこに向いているのかに気づくことです。

マインドワンダリングとは?

心理学や認知科学では、「マインドワンダリング(mind wandering)」という言葉が使われます。研究によって定義や測定方法には違いがありますが、一般には、注意が現在行っている課題や対象から離れ、別の思考などへ移っている状態を指して使われます。

たとえば、本を読んでいたのに、気づいたら夕食のことを考えていた。文字を目で追っていたけれど、内容がほとんど頭に入っていなかった。ということがあります。

瞑想でも同じようなことが起こります。呼吸に注意を向けていたはずなのに、「そういえば、あのメールを返していない」と思い出す。そこから、「明日の会議の準備もしないと」「その前に資料を直して……」と考え続ける。しばらくして、「あ、呼吸から離れていた」と気づく。

POINT

このように、注意がもともとの対象から離れて別の思考へ移ることが、マインドワンダリングとして研究されています。

注意の対象「呼吸」
↓
注意がそれる
↓
考えごとに入り込む
↓
「あ、考えていた」と気づく
↓
呼吸へ戻る

注意がそれることと、「それていると気づくこと」は違う

ここは、マインドフルネスを理解するうえで重要なところです。

考えごとをしている最中、私たちは必ずしも、「今、私は考えごとをしている」と分かっているわけではありません。たとえば、呼吸に注意を向けていたのに、仕事のことを考え、誰かとの会話を思い出し、明日の予定を考え、しばらくしてから、「呼吸から注意がそれていたこと」に気づくことがあります。

このとき、注意がそれた瞬間と、それていることに気づいた瞬間は、同じではありません。

気づいていない状態

仕事のことを考えているが、そのことに気づいていない

気づいている状態

「あ、仕事のことを考えていた」と気づく

メタ・アウェアネス(meta-awareness)

研究では、自分の注意や思考が今どうなっているかに気づくことを「メタ・アウェアネス」という言葉で扱うことがあります。2023年のシステマティックレビューでは、マインドワンダリングに自発的に気づいたときに本人が報告する「self-caught」という研究方法が、マインドワンダリングへのメタ・アウェアネスを調べる方法の一つとして整理されています。

POINT

つまり、注意がそれることと、注意がそれていることに気づくことは、分けて考えることができます。

マインドフルネスでいう「気づく」とはどういうことかについては、マインドフルネスとはどういう意味?「今ここに気づく」をわかりやすく解説でも扱っています。

「気づいた瞬間」は、失敗に気づいた瞬間ではない

瞑想中に、「また仕事のことを考えていた」と気づくと、「またできなかった」と思うことがあります。

けれども、少し見方を変えてみます。呼吸から注意がそれて、しばらく考えごとをしていた。そして、「あ、考えていた」と気づいた。その瞬間には、自分の注意がどこにあったのかを捉えています。

つまり、気づいた瞬間は、「瞑想に失敗したことが判明した瞬間」というより、自分の注意の状態に気づいた瞬間と見ることができます。

POINT

そこで、もう一度呼吸へ戻れば、実践は続きます。

「雑念を消そう」とすると、何が起きる?

雑念が気になると、「何も考えないようにしよう」「頭を空っぽにしよう」「考えを止めよう」としたくなるかもしれません。

しかし、呼吸瞑想では、考えを消すことを目標にする必要はありません。考えが浮かんだら、「考えが浮かんだ」と気づく。すでに考えの中に入り込んでいたなら、「考えていた」と気づく。そして、注意を呼吸へ戻します。

考えと戦う必要はありません。考えがなくなるまで待つ必要もありません。

雑念を消そうとする

考えをなくしてから呼吸へ戻ろうとする

気づいて、戻る

考えていたことに気づいたところから戻る

POINT

考えをなくしてから呼吸へ戻るのではなく、考えていたことに気づいたところから戻ります。

「考えないようにする」のではなく、「考えていることに気づく」

たとえば瞑想中に、「明日のプレゼン、大丈夫かな」という考えが浮かんだとします。そこから、「資料をもう一度確認した方がいい」「質問されたらどうしよう」「前回もうまく答えられなかった」と考えが続いていくことがあります。

このとき、「そんなことを考えてはいけない」と考えを否定する必要はありません。「あ、明日のことを考えていた」と気づきます。そして、呼吸へ戻ります。

ここで行っているのは、考えの内容が正しいか、間違っているかを判断することではありません。

POINT

自分が今、考えているということに気づくことです。

自分の思考を、思考として捉える働きについては、メタ認知とは?マインドフルネスとの関係をわかりやすく解説でも詳しく扱っています。

注意がそれる先は、考えごとだけではない

「雑念」というと、頭の中の考えごとをイメージしやすいかもしれません。しかし、瞑想中に注意が呼吸から離れるきっかけは、考えだけではありません。

外から聞こえる話し声。車の音。エアコンの音。スマートフォンの通知。身体のかゆみ。姿勢の違和感。さまざまなものへ注意が移ります。

大切なのは、それらを「雑念」や「邪魔なもの」としてなくそうとすることではありません。今、注意がどこに向いているのかに気づくことです。

POINT

呼吸瞑想では、注意が呼吸から離れていたことに気づいたら、もう一度呼吸へ注意を戻します。

注意がそれることには、役割もある

マインドワンダリングは、「なくすべき悪い状態」としてだけ捉えられるものではありません。私たちの注意が目の前のことから離れることで、過去を振り返ったり、未来について考えたり、まだ起きていないことを想像したりすることもあります。

そのため、「マインドワンダリング=悪」「今ここに注意を向けている=善」という単純な二分法で考える必要はありません。仕事をしているときに別のアイデアが浮かぶこともあれば、散歩中に問題の解決策を思いつくこともあります。一方で、目の前の仕事を進めたいのに、別の考えに長くとらわれてしまうこともあります。

POINT

重要なのは、注意がそれることそのものをなくすことではなく、今、自分の注意がどこにあるのかに気づき、必要に応じて注意を向け直せることです。

マインドフルネス瞑想をすると、マインドワンダリングは減るのか

マインドフルネス瞑想とマインドワンダリングの関係については、研究も行われています。

Feruglioらが2021年に発表したシステマティックレビューでは、24の研究が検討されました。

レビューされた研究の多くでは、一定期間のマインドフルネス実践後にマインドワンダリングの減少が報告されていました。また、経験豊富な瞑想実践者と未経験者を比較した研究でも違いが報告されています。

注意点

ただし、研究によって、以下のような点が異なっていました。著者らも、研究デザインや測定方法の異質性を指摘し、さらなる研究が必要だとしています。

  • マインドフルネスの実践方法
  • 実践期間
  • マインドワンダリングの定義
  • 測定方法
  • 対象者
POINT

そのため、「瞑想をすれば雑念がなくなる」と結論づけることはできません。そもそも、マインドフルネス実践の意味を「マインドワンダリングをゼロにすること」だけに置く必要もありません。

注意やマインドワンダリングに関する研究をより詳しく知りたい方は、マインドフルネスで集中力は高まる?注意がそれる仕組みと研究から分かっていることでも紹介しています。

瞑想中に雑念が浮かんだら、どうすればいい?

実践中の対応は、シンプルです。

1.気づく

まず、「考えていた」「音を聞いていた」「別のことに注意が向いていた」と気づきます。細かく分析する必要はありません。

2.評価しすぎない

「また雑念が出た」「集中力がない」「今日は瞑想ができていない」と、自分を評価する必要はありません。評価していることに気づいたなら、それも今起きていることの一つです。

3.注意を戻す

呼吸瞑想なら、もう一度呼吸の感覚へ注意を戻します。身体感覚を対象としているなら、身体へ戻ります。音を対象としているなら、音へ戻ります。そして、また注意がそれたら、気づいて、戻ります。この繰り返しです。

何度それてもいいの?

3分間の瞑想で、10回注意がそれるかもしれません。もっと多いかもしれません。

その回数だけを見て、「今日は瞑想がうまくできなかった」と判断する必要はありません。

注意がそれるたびに、それに気づき、もう一度戻る。それが何度も起きているなら、そのたびに自分の注意がどこにあるのかを捉え直しています。

呼吸を使った具体的な実践方法については、呼吸瞑想のやり方|呼吸に注意を向けるマインドフルネスの基本で詳しく紹介しています。

日常でも、同じことが起きている

注意がそれるのは、瞑想中だけではありません。

メールを書いていたのに、別の仕事のことを考えている。オンライン会議を聞いていたのに、気づけば自分の次の発言を考えている。資料を読んでいたのに、同じ行を何度も読んでいる。こうしたことは、日常でも起こります。

瞑想では、「注意を呼吸へ戻す」という形で分かりやすく練習しますが、日常では、「今、自分は何をしていたのだろう」「注意はどこへ行っていたのだろう」と気づくことができます。そして必要であれば、今取り組んでいることへ注意を戻します。

仕事中の注意のそれや切り替えについては、仕事に集中できないのはなぜ?マインドフルネスと注意の切り替えで詳しく扱っています。日常の短い実践については、仕事中にできる1分マインドフルネス|忙しいときの簡単な実践方法でも紹介しています。

「注意がそれない人」を目指さない

マインドフルネスを続けると、「いつか雑念がなくなるのでは」「ずっと今ここにいられるようになるのでは」と思うかもしれません。

しかし、私たちは考えます。思い出します。想像します。計画します。注意も動きます。

マインドフルネスを、「注意がそれなくなるための訓練」とだけ捉えると、注意がそれるたびに、「まだできていない」と評価することになります。

POINT

そうではなく、それていたことに気づいたところから、もう一度戻る。そのプロセスそのものを、実践として捉えてみます。

まとめ|「それないこと」より、「それたことに気づく」

瞑想中に雑念が浮かぶ。考えごとをする。音が気になる。いつの間にか呼吸から注意が離れている。こうしたことが起きても、それだけで瞑想に失敗したことにはなりません。

注意は動きます。そして、ときには、注意がそれていることにも気づかないまま、考えの中に入り込んでいます。

そこで、「あ、考えていた」と気づく。その瞬間、自分の注意がどこにあったのかを捉えています。そして、もう一度戻る。

まとめ

マインドフルネスの実践で大切なのは、一度も注意がそれないことではなく、それていることに気づくことです。それたら、気づく。そして、戻る。

瞑想中に「雑念ばかりだ」と感じたときは、そこからまた実践を続けることができます。