仕事を始めたのに、気づけばメールを見ている。資料を作っていたはずなのに、途中で届いたチャットに返信し、そのまま別の仕事を始めている。パソコンの画面は見ているけれど、頭の中ではさっきの会議のことを考えている。
仕事中には、こうしたことがよく起こります。「自分は集中力がない」と思うかもしれません。
しかし、私たちの注意は、常に一つの対象だけに向き続けるわけではありません。外から入ってくる情報にも、頭の中に浮かぶ考えにも注意は移ります。仕事の中でマインドフルネスがどのように関わるのかについては、仕事とマインドフルネス|働く中で「気づくこと」は何を変えるのかでも紹介しています。
仕事における集中を考えるときに大切なのは、「注意を一度もそらさないこと」ではなく、今どこに注意が向いているのかに気づき、必要なところへ戻れることです。
この記事では、仕事中に注意がそれる仕組みと、マインドフルネスがそこにどのように関係するのかを考えます。
仕事中、私たちの注意はさまざまな方向へ動いている
一つの仕事をしていても、注意を引くものはたくさんあります。
- メールが届く
- チャットの通知が出る
- 電話が鳴る
- 隣の人から話しかけられる
- 別の仕事を思い出す
- さっきの会議で言われたことが気になる
これらは大きく見ると、外側から入ってくるものと、自分の内側から起きるものがあります。通知や電話、周囲の会話などは、外から注意を引きます。
外側から
メール・チャット通知・電話・声かけなど
内側から
未処理の用件を思い出す・考えごと・心配など
一方、「そういえば、あのメールを返していなかった」「明日の資料も作らないと」「さっきの発言はまずかったかもしれない」といった思考は、自分の内側から注意を引きます。
つまり、仕事への集中を妨げるものは、目の前のスマートフォンや通知だけではありません。自分の頭の中で起きていることも、注意の行き先を変えています。
こうした注意の動き全体については、マインドフルネスを脳科学・心理学から理解するでも整理しています。
注意がそれること自体は、異常ではない
集中というと、一つのことだけを長時間考え続ける状態をイメージするかもしれません。しかし、注意がそれること自体は自然なことです。
たとえば資料を読んでいる途中で、「今日の午後は何をするんだっけ」と考え始めることがあります。
こうした、目の前の課題から離れて別のことを考える現象は、「マインドワンダリング」と呼ばれます。
マインドワンダリングは、単に「悪い癖」ではありません。過去を振り返ったり、将来を考えたり、新しいアイデアを思いついたりすることにも関係します。
問題になるのは、注意がそれたことに気づかないまま、目の前の仕事から離れ続けることです。仕事をしていたつもりなのに、数分後に「何をしていたんだっけ」となることがあります。
このとき必要なのは、注意を一度もそらさない能力というよりも、注意がそれたことに気づくことです。
「集中する」と「注意を戻す」はセットで考える
マインドフルネスの基本的な実践では、呼吸など一つの対象に注意を向けます。しかし、ずっと呼吸だけに集中できるわけではありません。
- 途中で考えごとをします
- 音が気になります
- 身体の感覚に注意が移ります
そこで、「今、注意がそれていた」と気づき、もう一度呼吸へ戻ります。
仕事でも似たことが起こります。
- 資料を作る
- 別のことを考えていることに気づく
- 今やる仕事を確認する
- 資料へ戻る
集中とは、注意が一度もそれない状態ではなく、それた注意を必要なところへ戻しながら仕事を続けることとして考えることもできます。
仕事では、自分で注意を切り替える必要もある
ただし、仕事では一つの対象に注意を向け続ければよいわけではありません。
- メールを書く
- 会議に参加する
- 資料を読む
- 同僚から相談を受ける
- 別のプロジェクトへ移る
一日の中で、私たちは何度も注意を切り替えています。
ここで重要になるのが、「何に注意を向けるかを選ぶ」ことです。
たとえば、重要な資料を作っている途中でメールが届いたとします。メールに気づいたからといって、必ずその場で開く必要があるとは限りません。「メールが来た」と気づいたうえで、「今は資料を続ける」と決めることもできます。反対に、緊急の連絡であれば、そちらへ注意を切り替える必要があります。
マインドフルネスは、ずっと一つのことに集中し続けるための方法というより、今、自分の注意がどこに向いているのかに気づくための実践として捉えることができます。
タスクを切り替えても、注意はすぐには切り替わらないことがある
仕事では、ある仕事から別の仕事へ移ったあとも、前の仕事のことを考え続けていることがあります。たとえば、以下のように仕事が続いたとします。
- 資料作成の途中で会議へ参加する
- 会議が終わってメールを書く
- その途中でチャットに対応する
身体は次の仕事へ移っていても、頭の中では前の仕事について考えていることがあります。
Leroyは、こうした現象を「attention residue(注意の残留)」という観点から研究しています。2009年の実験研究では、ある課題を終えないまま次の課題へ切り替えると、前の課題への注意が残り、次の課題のパフォーマンスに影響することが示されました。
※注意の一部が仕事Aに残ることがあります(attention residue)。
これは、「マルチタスクは絶対にしてはいけない」という意味ではありません。仕事では、タスクを切り替えざるを得ないこともあります。ただ、行動を次の仕事へ切り替えたからといって、注意も同時に完全に切り替わるとは限らないということです。
仕事の「切れ目」に気づく
そこで役立つのが、仕事と仕事の間に短い区切りをつくることです。
- 会議が終わった
- 一つの資料を書き終えた
- 昼休みから戻った
- これから別の仕事を始める
そのときに、すぐ次の作業へ飛び込むのではなく、以下のように確認します。
- 「今、どんなことを考えているだろう」
- 「注意はまだ前の仕事に残っていないだろうか」
- 「これから何に注意を向けるのか」
長い時間を取る必要はありません。数十秒でも、1分でも構いません。
これは「頭を空っぽにする」ためではなく、今の注意の状態に気づき、次に向ける対象を確認するための時間です。
この短い区切りの実践は、仕事中にできる1分マインドフルネス|忙しいときの簡単な実践方法で紹介している内容とも重なります。
マインドフルネスで集中力は高まるのか
では、マインドフルネスを実践すると、仕事への集中力が高まるのでしょうか。研究では、マインドフルネスに基づく介入と、さまざまな認知機能との関係が調べられています。
2024年に発表された111件のランダム化比較試験、9,538人を対象としたメタ分析では、マインドフルネスに基づく介入は、持続的注意、実行注意、ワーキングメモリの正確性、抑制や注意の切り替えなど、複数の認知領域で小~中程度の効果を示しました。一方、処理速度やエピソード記憶など、明確な効果が確認されなかった領域もあります。
そのため、「マインドフルネスをすれば集中力が上がる」と一括りにすることはできません。注意や集中には複数の働きがあり、それぞれを分けて見る必要があります。
マインドフルネスと注意・集中力に関する研究については、マインドフルネスで集中力は高まる?注意がそれる仕組みと研究から分かっていることで詳しく解説しています。
「集中力が高まる」と「仕事の成果が上がる」は同じではない
ここでもう一つ、区別しておきたいことがあります。注意に関する認知課題で変化が確認されたことと、実際の仕事の成果が高まることは同じではありません。
2025年に発表されたシステマティックレビューとメタ分析では、仕事や学業におけるパフォーマンスを対象として、マインドフルネスに基づくプログラムのランダム化比較試験が検討されました。
その結果、何もしない対照群との比較ではパフォーマンスへの効果がみられましたが、他の活動を行う積極的対照群と比較すると、明確な効果は確認されませんでした。また、エビデンスの確実性は非常に低いと評価されています。
仕事の成果には、注意だけでなく、以下のようなさまざまな要因が関係します。
- 仕事の難しさ
- 知識や経験
- 周囲との連携
- 仕事量
- 役割や権限
- 使用しているシステム
- 組織の制度
そのため、「マインドフルネス→集中力向上→生産性向上」と一直線につなげて考えることには注意が必要です。
集中できない原因を、本人だけに求めない
「集中できない」というと、以下のように個人の問題として考えられがちです。
- 本人の集中力が足りない
- 意志が弱い
- スマートフォンを見すぎている
しかし、仕事環境そのものが注意を頻繁に切り替えさせている場合もあります。
- 複数のチャットツールから通知が届く
- メールへの即時返信が暗黙に求められている
- 会議の間隔がほとんどない
- 一人が複数の仕事を同時に抱えている
- 頻繁に声をかけられる
- 優先順位が何度も変わる
個人
注意・疲労・考えごと
環境
通知・中断・会議・仕事量・優先順位の変化
※「本人の集中力不足」だけでは見ません。
こうした環境で、「もっと集中しなければ」と本人だけに努力を求めても、限界があります。
マインドフルネスによって、「今、注意がそれている」と気づくことはできます。しかし、注意を何度も中断させる環境そのものを、マインドフルネスだけで解決することはできません。
個人だけに原因を求めない視点は、職場ストレスはなぜ生まれる?個人と組織の両面から考えるとも共通しています。
「集中できない」ことに気づいたら、何を見るか
仕事中に集中できていないことに気づいたら、「もっと集中しよう」だけで終わらず、少し広く状況を見ることができます。
- 今、何に注意が向いていたのか
- 何がきっかけで注意がそれたのか
- 考えごとをしていたのか
- 通知に反応したのか
- 前の仕事が気になっているのか
- 疲れているのか
- そもそも、仕事が多すぎるのか
- 何を優先すればよいのか分からないのか
こうして見ると、「集中できない」という一つの状態の背景にも、さまざまな要因があることが分かります。
自分の注意の動きに気づくこと。そして、自分だけでなく、その注意が置かれている環境にも目を向けること。仕事におけるマインドフルネスを考えるときには、どちらも大切です。
「注意がそれたことに気づく」という働きそのものについては、メタ認知とは?マインドフルネスとの関係をわかりやすく解説で詳しく扱っています。
まとめ|集中とは、注意がそれないことではなく、戻れること
仕事をしていれば、注意はそれます。
- メールが届く
- 人から話しかけられる
- 別の仕事を思い出す
- 考えごとをする
それ自体を完全になくすことはできません。だからこそ大切なのは、今、注意がどこに向いているのかに気づくことです。
そして、以下を必要に応じて選ぶことです。
- 今の仕事へ戻るのか
- 別のことへ注意を切り替えるのか
- 少し休むのか
- 仕事の優先順位を整理するのか
マインドフルネスは、何時間も途切れずに集中するためのテクニックではありません。注意がそれたときに、そのことに気づく。そして、必要なところへ注意を戻す。その小さな繰り返しは、仕事の中で自分の注意がどのように動いているのかを知る機会になります。
そして、ときには、「自分が集中できない」のではなく、「集中しにくい働き方になっていないか」と、仕事の環境そのものを見るきっかけにもなります。
実際にこうした気づきを練習する基本的な方法は、マインドフルネスのやり方|初心者のための実践ガイドで紹介しています。
