DMNは、なぜマインドフルネス研究で注目されるのか
DMN(Default Mode Network:デフォルトモードネットワーク)は、外部の課題に注意を向けていないときなどに活動が高まりやすく、自己に関する思考や記憶、未来の想像などと関連する脳のネットワークです。
マインドフルネス研究では、注意が目の前から離れて考え事に移るマインドワンダリングや、瞑想中の内的な思考との関係から、DMNが研究されてきました。そのため、DMNはマインドフルネスを脳科学から理解する際によく取り上げられるテーマの一つです。
一方で、DMNが働くこと自体を問題と捉えるのは適切ではありません。DMNは、過去を振り返る、未来を思い描く、自分自身について考える、他者の立場を推測するといった日常的な認知にも関わります。
マインドフルネスの観点から重要なのは、DMNを「止める」ことではなく、内的な思考に入り込んだときに気づき、必要に応じて注意を戻したり、別の認知活動へ移ったりできる柔軟さとして捉えることです。
DMN(デフォルトモードネットワーク)とは?
DMNは、一つの脳部位ではありません。内側前頭前野、後部帯状皮質・楔前部、角回などを含む、複数の領域からなる大規模な脳のネットワークです。
2001年、Raichleらは、外部の課題に集中しているときよりも、明確な課題を行っていない安静時に相対的に活動が高くなる一群の脳領域に注目し、脳の「default mode」という考え方を提案しました。
ここでいう「default」は、「何もしていない」「脳が休んでいる」という意味ではありません。外から見ると何もしていないように見える時間にも、脳では組織だった活動が続いています。
さらに現在では、DMNを一枚岩の単一ネットワークとして考えるのではなく、複数のサブネットワークが重なりながら働く複雑なシステムとして理解する研究が進んでいます。
外界への注意が強く要求されていないときなどに活動しやすく、自分自身、記憶、未来、他者などについて内的に考えることに関わる脳のネットワークです。
DMNは何をしているのか
DMNは、単なる「雑念ネットワーク」ではありません。これまでの研究では、自伝的記憶を思い出すこと、未来の出来事を想像すること、他者の考えや感情を推測すること、自分に関係する情報について考えることなどとの関連が示されています。
たとえば、来週のプレゼンテーションを頭の中で予行演習する。過去の経験を思い出して次の行動を考える。相手がなぜそのような発言をしたのか想像する。こうした活動には、目の前の刺激だけではなく、記憶や自己に関する情報を組み合わせる必要があります。
Andrews-Hannaらは、DMNがこのような「内的に生成される思考」に重要な役割を持つ一方、それらの思考自体も一種類ではなく、複数のプロセスからなると整理しています。
DMNが役立つ場面
経験を振り返る、未来を計画する、人間関係を考える、自分の価値観や方向性を検討する。
困難につながることがある場面
目の前の課題から注意が逸れ続ける、同じ考えを繰り返す、内的な思考から切り替えにくい。
つまり問題は、DMNが働くこと自体ではなく、そのとき何を考えているのか、その思考が今の状況に役立っているのか、必要なときに切り替えられるのかという点にあります。
DMNとマインドワンダリングは同じではない
DMNは、マインドワンダリングとの関連からよく知られています。マインドワンダリングとは、目の前の課題や外部刺激から注意が離れ、別の思考へ移っている状態です。
DMNの活動は、こうした自発的・内的な思考と関連します。しかし、DMN=マインドワンダリングではありません。
マインドワンダリングにはDMN以外のネットワークも関与します。また、DMNは意図的に過去を思い出したり、未来を計画したりするときにも働きます。逆に、DMNが活動しているという脳画像だけから、「その人はいま雑念にふけっている」と断定することもできません。
マインドワンダリングそのものについては、マインドワンダリングとは?なぜ心は勝手にさまようのかで詳しく整理しています。
反芻思考とも同じではない
DMNは、反芻思考との関係でも取り上げられます。反芻とは、嫌な出来事や自分の失敗などについて、同じ内容を何度も繰り返し考え続けることです。
自己に関する思考を支えるDMNの性質を考えると、反芻との関連が研究されるのは自然です。ただし、反芻は心理的なプロセスであり、DMNという脳のネットワークそのものではありません。反芻には、注意、感情、認知制御など複数のプロセスとネットワークが関わります。
「DMNが強いから反芻する」「DMNを下げれば反芻がなくなる」といった一方向の説明は、現在の研究からは言えません。脳のネットワークと心理現象は、一対一に対応するものではありません。
反芻への向き合い方については、嫌なことが頭から離れないのはなぜ?反芻思考とマインドフルネスもあわせてご覧ください。
マインドフルネス研究ではDMNに何が起きる?
瞑想とDMNの関係を広く知られるようにした研究の一つが、Brewerらによる2011年の研究です。経験豊富な瞑想実践者と未経験者を比較したところ、集中瞑想、慈悲の瞑想、オープン・モニタリングに近い実践のいずれでも、経験者ではDMNの主要領域である内側前頭前野や後部帯状皮質の活動が相対的に低いことが報告されました。
この結果は、「瞑想ではDMNが抑えられる」という説明の根拠の一つになりました。ただし、この一研究だけから「瞑想はDMNを止める」と一般化することはできません。
その後の研究では、DMN内部の活動量だけでなく、DMNと他のネットワークとのつながり方にも注目が集まっています。
2022年のメタ分析では、マインドフルネストレーニングを扱った12研究(マインドフルネス群226人、対照群204人)を統合した結果、DMNの主要領域である後部帯状皮質と、サリエンスネットワークに含まれる中部帯状皮質との安静時機能結合が、対照群より強いという小さな効果が報告されました。
また、2025年のネットワーク神経科学のレビューでは、研究数はまだ限られており、脳全体の結合性に関する結果は一貫していない一方、マインドフルネストレーニング後にDMN内部の結合が低下する傾向が整理されています。
「瞑想するとDMNが止まる」は正確ではない
ここまでの研究を見ると、「マインドフルネスによってDMNが止まる」と表現したくなるかもしれません。しかし、これは適切ではありません。
第一に、DMNは日常生活に必要な機能を担っています。記憶や未来の想像、他者理解などまで止めることが、マインドフルネスの目的ではありません。
第二に、瞑想にも複数の方法があります。呼吸への集中、開かれた気づき、慈悲の瞑想などでは、認知的に行っていることが異なります。2016年に78件の機能的脳画像研究を統合したメタ分析でも、瞑想法によって異なる活動パターンが報告されています。
第三に、研究で観察されるのは「活動がある/ない」という単純なスイッチではなく、特定領域の相対的な活動や、ネットワーク内・ネットワーク間の結合の違いです。
「DMNを止める」より、「内的な思考に自動的に引き込まれ続ける状態から、必要に応じて注意や認知を切り替えられるようになる可能性」と捉える方が、研究に近い表現です。
重要なのは、DMNを消すことよりネットワーク間の柔軟さ
脳は、一つのネットワークだけで働いているわけではありません。外部の課題に注意を向けるとき、身体や環境の変化を検出するとき、内的な思考をするときなど、複数のネットワークが相互に関係しながら活動しています。
そのため、マインドフルネスとDMNの関係を考えるときにも、「DMNの活動量が低いほどよい」と一本の尺度で見るより、DMN、サリエンスネットワーク、前頭頭頂制御ネットワークなどの間で、状況に応じてどのように切り替えや連携が起きるのかを見る方が重要です。
たとえば呼吸瞑想では、呼吸に注意を向けていたのに考え事へ移ることがあります。そこで「考えていた」と気づき、再び呼吸へ注意を戻します。この逸れる → 気づく → 戻すという過程は、DMNだけでなく、注意やモニタリング、認知制御に関わる複数のネットワークの相互作用として考える必要があります。
このプロセスは、集中力とマインドフルネス|「気が散らない」より「戻れる」力ともつながります。
実践するとき、脳内のDMNを意識する必要はある?
日常のマインドフルネス実践で、「今DMNが活動している」と考える必要はありません。脳画像で測定されるネットワーク活動と、実践者がその瞬間に経験していることは、同じレベルの説明ではないからです。
実践で扱えるのは、もっと直接的な経験です。呼吸に注意を向けている。いつの間にか仕事のことを考えている。考えていたことに気づく。再び呼吸へ戻る。
脳科学は、こうした経験の背景でどのような神経活動が起きている可能性があるのかを理解する助けになります。しかし、脳科学の説明が、実践そのものに置き換わるわけではありません。
DMNについて知る目的は、「雑念をなくす」ことではなく、考えが自然に生まれることを理解し、その考えに気づいたときにどう関わるかを考えることにあります。
メタ認知との関係については、メタ認知とは?「考えている自分」に気づく力でも解説しています。
まとめ|DMNを敵にせず、思考との関係を見る
DMNは、何もしていないときだけ働くネットワークでも、雑念や反芻だけを生み出すネットワークでもありません。過去の経験を思い出し、未来を想像し、自分や他者について考えるなど、人間にとって重要な内的認知に関わっています。
一方で、目の前の課題から注意が逸れ続けたり、同じ自己関連思考を繰り返したりするときには、DMNを含む脳のネットワークの働きが関係することがあります。
マインドフルネス研究では、瞑想時のDMN活動や、DMN内部・他ネットワークとの結合の違いが報告されています。ただし、研究はまだ発展途上であり、「マインドフルネスでDMNを止める」と単純化することはできません。
マインドフルネスをDMNから理解するときのポイントは、「考えない脳」を目指すことではありません。内的な思考が起きていることに気づき、必要なときに注意や行動を選び直せる柔軟さを見ることです。
脳科学・心理学からの全体像は、マインドフルネスを脳科学・心理学から理解するもあわせてご覧ください。
