資料を読んでいたはずなのに、気づけば週末の予定を考えていた。会議を聞いていたはずなのに、いつの間にか別の仕事のことを考えていた。こうした「注意が目の前のことから離れる」経験は誰にでもあります。
心理学では、このような現象をマインドワンダリング(mind wandering)と呼びます。ただし、単純に「集中力がない状態」や「悪い雑念」と同じではありません。
マインドワンダリングとは?
マインドワンダリングは、いま行っている課題や目の前の出来事から注意が離れ、別の思考へ移っている状態として研究されています。過去の出来事、未来の予定、仕事とは関係のない考えなど、注意が向かう先はさまざまです。
研究上の定義には幅がありますが、多くの研究に共通しているのは、「今の課題から注意が離れている」という点です。たとえば、資料を読んでいる途中で昔の会話を思い出したり、週末の予定を考え始めたりする状態がこれにあたります。一方、隣で物音がして一瞬そちらを見るといった、外からの刺激による注意の移動とは区別して扱われることがあります。
このように、注意が目の前の課題から離れ、次々と別の思考へ移っていくことがあります。
注意がそれること自体は、珍しいことではない
私たちの注意は、ずっと一つの対象に固定されているわけではありません。目の前のことに取り組んでいても、記憶や予定が浮かび、注意が内側の思考へ移ることがあります。
そのため、マインドワンダリングが起きたという事実だけで、「集中力がない」と判断することはできません。大切なのは、注意が移ったこと自体を評価するよりも、今何をしようとしているのか、その状況でどこに注意を向けたいのかとの関係で捉えることです。
マインドフルネスで大切なのは、注意が一度もそれないことではなく、今、自分の注意がどこに向いているのかに気づくことです。
マインドワンダリングは「悪いもの」なのか
マインドワンダリングがどのような意味を持つかは、状況によって異なります。細かな確認や重要な説明を聞くなど、目の前の課題に注意を向け続けたい場面では、注意が離れることで読み飛ばしや見落としにつながることがあります。
一方、将来について考えたり、問題について自由に連想したりする場面では、目の前から思考が離れることが、考えを広げたり整理したりする過程の一部になることもあります。
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目の前の課題から注意が離れる
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目の前以外へ思考が広がる
つまり、「マインドワンダリングが起きたかどうか」だけで良し悪しが決まるわけではありません。今の目的との関係で、その注意の移動が支障になっているのか、あるいは思考を広げる時間になっているのかを見ることが大切です。
注意がそれていることに「気づいている」状態と「気づいていない」状態
研究では、注意がそれていることへのメタ・アウェアネスも重要なテーマです。メタ・アウェアネスとは、自分が今何を考えているか、注意がどこに向いているかといった、自分自身の心の状態に気づいていることを指します。10分間別のことを考え続けてから気づく場合もあれば、数秒で「あ、別のことを考えていた」と気づく場合もあります。
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別の思考が続く
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しばらくしてから気づく
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「今、別のことを考えていた」
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戻るか、そのまま考えるかを選ぶ
注意がそれていることに気づくと、「集中できていないな」などと、ネガティブに捉えてしまうこともあるかもしれません。しかし、気づいたことで、また元の作業に注意を戻すことができます。その意味では、注意がそれていることに気づくこと自体は、むしろポジティブな気づきとも言えます。
マインドフルネスでは、注意がそれたらどうする?
呼吸瞑想では、まず呼吸の感覚へ注意を向けます。途中で仕事や予定のことを考えていたと気づいたら、それを責めたり、「考えてはいけない」と押し出したりするのではなく、注意が呼吸から離れていたことを認識します。そのうえで、もう一度呼吸へ注意を向けます。
ここで行っているのは、別の思考をなくすことではありません。自分の注意がどこに向いているのかに気づき、その時に向けたい対象へ注意を向け直すことです。
これは日常の仕事でも同じです。たとえば資料作成中に別の案件が頭に浮かんだとき、今は資料へ戻るのか、それとも急ぎの用件として意図的に別の案件へ切り替えるのかを選ぶことができます。注意がそれたことへの気づきは、必ず元の対象へ戻るためではなく、次にどこへ注意を向けるかを自分で選ぶための起点になります。
瞑想中に雑念が浮かぶのはなぜ?でも詳しく解説しています。
仕事では、注意がそれることが問題になる場合と、ならない場合がある
仕事では、常に一つのことだけに注意を向けているわけではありません。メールを確認しながら問い合わせに対応したり、複数の案件を行き来したりと、意図的に注意を切り替えることが必要な場面もあります。
一方、資料を精読する、文章を書く、数字を確認するといった、一つの作業に注意を向け続ける必要がある場面では、意図しないマインドワンダリングによって作業が中断されることがあります。
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問い合わせに対応する
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メールに戻る
複数の仕事を進めるために必要な切り替え
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いつの間にか別のことを考える
集中が必要な作業では支障になることがある
ここで区別したいのは、「注意が移ること」そのものではなく、その注意の移動が意図したものかどうか、そして今行っている仕事にとって支障になっているかどうかです。
マインドフルネスで目指すのは、仕事中に注意を一つの対象へ固定し続けることではありません。今、自分の注意がどこに向いているのかに気づき、必要に応じて注意を切り替えたり、元の作業へ戻したりできることが大切です。
研究から分かっている、マインドワンダリングの特徴
研究からは、マインドワンダリングが一部の人だけに起こる特殊な現象ではなく、日常生活の中で頻繁に生じていることが分かっています。また、注意がそれていることに本人が気づいている場合と、気づいていない場合があることも研究されています。
Kawashimaら(2023)は、日常生活の中でその時々の心の状態を尋ねる研究を系統的にレビューし、17研究を対象にメタ分析を行いました。その結果、マインドワンダリングが報告された割合は平均34.5%でした。つまり、マインドワンダリングは日常の中で珍しくない現象だと考えられます。ただし、研究間のばらつきは大きく、測定方法によって報告される割合が変わることも示されています。
Chuら(2023)のシステマティックレビューでは、マインドワンダリングに本人が自発的に気づく「メタ・アウェアネス」を扱った39研究が整理されました。研究では、注意がそれている状態には、本人がそれに気づいている場合と、外部から尋ねられて初めて捉えられる場合があることが区別されています。先ほど見た「気づいている/気づいていない」という違いは、マインドワンダリング研究でも重要なテーマの一つです。
Priceら(2023)は、複数の組織で実施された5つの縦断研究、計304人のデータをまとめ、4週間のMBAT(Mindfulness-Based Attention Training)を受けた群と、トレーニングを受けなかった群を比較しました。トレーニングなし群では、4週間で自己報告のマインドワンダリングが増え、メタ・アウェアネスが低下した一方、MBAT群ではいずれも有意な変化がみられず、両群の変化のパターンには有意差がありました。つまり、この研究で示されたのは単純な「改善」というより、注意の状態の悪化を抑える可能性です。ただし、5研究はいずれも初期段階で統計的検出力も十分ではなく、著者らはより大規模なランダム化比較試験が必要だとしています。
これらの研究から、マインドワンダリングは日常生活の中で生じる身近な現象であり、注意がそれていることに本人が気づいているかどうかも、研究上区別されていることが分かります。また、マインドフルネスとの関係を検討する研究では、マインドワンダリングの頻度だけでなく、注意がそれていることへの気づきも指標として扱われています。
「集中できた時間」だけで実践を評価しない
瞑想をすると、「今日は何度も別のことを考えたから、うまくできなかった」と感じることがあります。しかし、呼吸など一つの対象に注意を向ける実践では、注意がそれることも、それに気づいて戻すことも、実践の中で実際に起きるプロセスです。
たとえば10分間の瞑想で何度も注意がそれても、その都度それに気づいて呼吸へ戻っているのであれば、その10分間を単純に「集中できなかった」と捉える必要はありません。どれだけ長く注意を保てたかだけではなく、それたことに気づき、その後どう注意を扱ったかまで含めて実践を見ることができます。
注意がそれることと、それに気づくことは別です。マインドフルネスの実践では、「それなかったか」だけでなく、「それたときに気づけたか」という過程も大切にします。
まとめ|「それないこと」より「気づけること」
マインドワンダリングは、注意が目の前の課題から離れ、別の思考へ移る現象です。日常生活の中で起こる身近な現象であり、状況によっては作業の妨げになる一方、考えを広げたり、将来について思いを巡らせたりする過程の一部になることもあります。
また、注意がそれている状態にも、それに気づいている場合と、気づいていない場合があります。マインドフルネスの実践では、この「気づくこと」を手がかりに、今どこへ注意を向けるのかを選び直します。
仕事でも日常生活でも、常に一つの対象へ注意を固定し続けることが目的ではありません。今の目的に照らして、元の作業へ戻るのか、別のことへ意図的に注意を切り替えるのかを選べることが大切です。
