大事なプレゼンテーションの前に、「うまく話せなかったらどうしよう」と考える。上司から「あとで少し話せますか」とメッセージが届き、「何か問題があったのではないか」と気になる。体調に少し変化があると、「このまま悪くなったら」と心配になる。
不安は、まだ起きていないことについても生じます。そして不安になると、そのことについてさらに考え、考えるほど不安が強くなることもあります。
そんなとき、「不安にならないようにしよう」「考えないようにしよう」と思うかもしれません。しかし、マインドフルネスは、不安をなくすことそのものを目標にする方法ではありません。まずは、今、不安があることと、その不安の中で自分に何が起きているのかに気づくところから始めます。
不安は、まだ起きていないことにも生じる
不安には、これから起こるかもしれない出来事が深く関わります。「失敗するかもしれない」「嫌われるかもしれない」「悪い結果になるかもしれない」。未来はまだ確定していないため、私たちはさまざまな可能性を考えることができます。
これは、それ自体が問題というわけではありません。先のことを考えるからこそ、準備したり、危険を避けたり、必要な行動を取ったりできます。
一方で、まだ起きていないことについて何度も考え続けるうちに、不安がさらに強くなることもあります。
不安を感じること自体を「悪い状態」と決めるのではなく、不安が生じたあとに、自分の注意や思考がどこへ向かっているのかを見ることが一つの手がかりになります。
不安があると、考えることも増えていく
たとえば、翌日のプレゼンテーションが不安だとします。最初は「うまくできるかな」という心配だったのに、「質問に答えられなかったら」「評価が下がったら」「次の仕事を任せてもらえなかったら」と、考えが次々に広がることがあります。
不安と思考は、いつもこの順番で進むわけではありません。身体の緊張に気づいて不安になることもあれば、ある考えが浮かんだことで身体が緊張することもあります。
また、嫌な出来事を何度も考え続ける反芻と、不安や心配には重なる部分もありますが、同じものではありません。反芻思考については、反芻思考とは?考えすぎてしまう仕組みとマインドフルネスで詳しく整理しています。
不安を「なくそう」とすると何が起きる?
不安は不快な感覚を伴うため、「早くなくしたい」と思うのは自然なことです。しかし、不安を感じないようにすることと、不安にどう関わるかは別の問題です。
「考えないようにしよう」としているのに、気づけばまた考えている。「落ち着かなければ」と思うほど、自分が落ち着いていないことが気になる。こうした経験は珍しくありません。
だからといって、「不安は消そうとしてはいけない」という新しいルールを作る必要もありません。大切なのは、不安をなくせたかどうかだけを実践の成否にしないことです。
不安が残っていても、「今、不安を感じている」「頭の中で先のことを何度も考えている」と気づくことはできます。
マインドフルネスでは、不安にまず気づく
マインドフルネスでは、今起きている経験に注意を向けます。不安があるときも、まずその経験を見ていきます。
胸のあたりが落ち着かない。肩に力が入っている。「失敗したらどうしよう」という考えが浮かんでいる。何度もメールを確認したくなっている。
ここで行うのは、「不安ではない」と思い込むことでも、「大丈夫」と言い聞かせることでもありません。今起きていることを、起きていることとして確認します。
マインドフルネスで不安に向き合うとき、不安を消すことよりも、「今、不安がある」と気づき、そのとき自分に何が起きているのかを見ることを大切にします。
「不安がある」と「悪いことが起きる」は同じではない
不安が強いとき、頭に浮かんでいる予測が現実そのもののように感じられることがあります。
「失敗するかもしれない」と考えていることと、実際に失敗すること。「嫌われたかもしれない」と感じていることと、相手が実際にそう思っていること。「何か悪いことが起きそう」と感じることと、悪いことが起きることは同じではありません。
もちろん、不安に感じていることが実際のリスクを反映している場合もあります。マインドフルネスは「心配は全部思い込みだ」と考える方法ではありません。
まず、「今、私はこう予測している」と気づく。そのうえで、確認できる事実は何か、準備できることは何かを考えることができます。
思考を思考として捉えることは、メタ認知やデセンタリングとも関係します。詳しくは、メタ認知とは?マインドフルネスとの関係をわかりやすく解説で扱っています。
不安から距離を取るとは、無関心になることではない
「不安から距離を取る」というと、気にしない、考えない、感情を切り離す、といった意味に聞こえるかもしれません。
ここでいう距離は、不安を追い払うことではありません。不安があることを認めながら、それと同時に「不安を感じている自分にも気づいている」状態を考えてみる、ということです。
不安があっても、資料を確認することはできます。必要な人に相談することもできます。今日はここまで準備したら休む、と決めることもできます。
↓
「きっと失敗する」
↓
予測を現実のように感じる
↓
事実・準備できること・分からないことを見る
不安に気づくことと、不安の言う通りに行動することは同じではありません。
研究では、マインドフルネスと不安について何が分かっている?
マインドフルネスと不安については、臨床研究を含め多くの研究が行われています。ただし、「マインドフルネスをすれば不安がなくなる」とまとめるのは適切ではありません。
Hallerらによる2021年のシステマティックレビューとメタ分析では、DSM-5の不安障害を持つ成人を対象とした23研究、1,815人が検討されました。ACT、MBCT、MBSRなどの受容・マインドフルネスに基づく介入には短期的な改善が報告されましたが、研究のバイアスリスクや異質性、長期的な差、比較条件などを踏まえた慎重な解釈が必要です。
Johannsenらによる2022年のメタ分析では、マインドフルな注意、デセンタリング、受容が、不安・抑うつへの介入効果を媒介する可能性が検討されました。全体では小〜中程度の媒介効果が示されましたが、より因果推論に適した時間差を用いる分析では明確な効果が示されず、著者らも因果性や各メカニズムの特異性について限界を指摘しています。
研究で用いられるMBSRやMBCTなどの体系的なプログラムと、日常で数分行うマインドフルネス実践は同じではありません。また、診断された不安障害への治療研究を、日常的な心配にそのまま当てはめることもできません。
そのため、この記事では「不安への治療効果」を約束するのではなく、マインドフルネスにおける不安との関わり方を中心に扱っています。
不安があるときの短い実践
不安を感じたとき、すぐに原因を分析したり、なくそうとしたりする前に、短く今の状態を確認してみます。
- 「今、不安がある」と確認する。
うまく名前をつけられなければ、「落ち着かない」「気になっている」でも構いません。 - 身体の感覚に気づく。
胸、お腹、肩、顔、呼吸など、今感じやすい場所を確認します。呼吸を無理に深くする必要はありません。 - 頭の中で何を予測しているかを見る。
「失敗するかもしれない」「悪く思われるかもしれない」など、浮かんでいる考えを確認します。 - 今できることと、今は分からないことを分ける。
準備できることがあるなら行う。今は答えが出ないことなら、「分からないまま気になっている」と気づきます。
この実践の目的は、不安を数分で消すことではありません。呼吸を使った基本的な実践については、マインドフルネスのやり方|初心者のための実践ガイドでも紹介しています。
不安が強いときは、個人の実践だけで抱え込まない
不安には、仕事や人間関係、生活上の出来事、健康上の問題など、現実の状況が関係していることもあります。職場であれば、仕事量、役割の曖昧さ、人間関係、雇用への懸念など、環境側の要因が不安につながる場合もあります。
そのようなとき、マインドフルネスによって自分の状態に気づくことと、必要な環境調整や相談を行うことは別々に考える必要があります。
強い不安が長く続く、生活や仕事に大きな支障が出ている、パニック発作などの症状がある場合、マインドフルネスだけで対処しようとせず、医療機関や心理職など適切な専門家への相談を検討してください。マインドフルネスは医療や心理療法の代わりになるものではありません。
まとめ|不安をなくすことより、不安との関係を見る
不安は、まだ起きていないことについても生じます。そして不安があると、未来の悪い可能性を何度も考え、その思考がさらに不安を強めることがあります。
マインドフルネスは、「不安にならない自分」をつくるための方法ではありません。
今、不安がある。身体が緊張している。先のことを予測している。何度も確認したくなっている。まず、そのことに気づきます。
そして、「不安を感じていること」と「不安が予測していることが現実になること」を同じものにしない。必要なら準備する。確認する。相談する。今は分からないことなら、分からないまま気になっている自分に気づく。
不安をなくせたかどうかではなく、不安があるときに自分の中で何が起きているのかを見る。マインドフルネスは、不安との関係を少し違う角度から捉える一つの方法になります。
