リーダーや管理職になると、人を見る場面が増えます。「この人には何が足りないのだろう」「どうすれば、もっと主体的に動いてもらえるだろう」「なぜ、もっと早く相談してくれないのだろう」部下やチームについて考え、判断し、働きかけることは、リーダーの重要な役割の一つです。
一方で、人を見ている自分自身にも、さまざまなことが起きています。焦っている。期待している。苛立っている。以前の経験と重ねて見ている。「こうするべきだ」と考えている。
リーダーも、チームの外から人を客観的に観察している存在ではありません。自分自身の感情や考えを持ちながら、他者と関わっています。
マインドフルネスとリーダーシップの関係を考えるとき、一つの入口になるのが、人を見る前に、人を見ている自分にも気づくことです。
この記事は、マインドフルネスと組織開発|「個人を整える」から「関係性と組織を見る」へで扱った視点をもとに、リーダーシップとの関係を詳しく考えるものです。職場における気づきの大きな文脈については、仕事とマインドフルネス|働く中で「気づくこと」は何を変えるのかでも紹介しています。
マインドフル・リーダーシップとは何か
「マインドフル・リーダーシップ」や「マインドフル・リーダー」という言葉は、欧米を中心に、研究やビジネスの現場で使われるようになってきています。
ただし、注意したいのは、「マインドフル・リーダーシップ」という一つの確立されたリーダーシップ理論や、統一された定義があるわけではないことです。研究でも、リーダー自身のマインドフルネス、マインドフルネス瞑想の実践、リーダーの行動や資質、部下との関係など、さまざまな観点から検討されています。
2024年に発表されたレビューでは、2000年から2021年までの19の概念的・実証的研究を整理し、マインドフル・リーダーに関連する要素として「attention(注意)」「awareness(気づき)」「authenticity(真正性)」という三つの柱が提案されています。これは研究者が既存研究を整理して提案した一つの枠組みであり、「マインドフル・リーダーとは必ずこの三つを備えた人である」と確定したわけではありません。
この記事では、特定のリーダーシップ理論を定義するのではなく、マインドフルネスという視点をリーダーの仕事に持ち込むと、何が見えてくるのかを考えていきます。
リーダーも、自分の見方を通して相手を見ている
たとえば、部下から、「この仕事、予定より遅れそうです」と報告されたとします。その瞬間、「なぜもっと早く言わなかったのか」と思うかもしれません。焦りを感じるかもしれません。「またか」と思うかもしれません。そして、「どうして今まで報告しなかったの?」と、すぐに問いただしたくなるかもしれません。
もちろん、実際に確認が必要な場面もあります。ただ、ここで一度見てみたいのは、部下の行動だけではありません。相手の言葉を聞いた瞬間、自分の中で何が起きたのかです。
私たちは、起きた出来事をそのまま受け取っているわけではありません。自分の経験や期待、そのときの感情などを通して状況を捉えています。リーダーであることによって、この人間としての性質がなくなるわけではありません。
「正しい判断をすること」と「自分に気づくこと」は同じではない
リーダーには、判断することが求められます。限られた情報の中で決めなければならないこともありますし、部下へ指示したり、問題を指摘したりする必要もあります。
マインドフルネスは、そうした判断をしなくなることではありません。また、すべてをじっくり考えればよいという話でもありません。
見るのは、以下のようなことです。
- 「私は今、何を事実として見ているのか」
- 「そこに、どのような自分の解釈が加わっているのか」
- 「今の感情は、次の行動にどう影響しそうか」
自分の思考や解釈そのものに気づく働きについては、メタ認知とは?マインドフルネスとの関係をわかりやすく解説でも紹介しています。
気づいたからといって、必ず正しい判断ができるわけではありません。それでも、自分の考えや感情に気づかないまま、それを唯一の事実として扱うこととの間には違いがあります。
感情をなくすことが、マインドフルなリーダーではない
マインドフルネスというと、「感情に左右されない」「いつも冷静でいられる」というイメージを持つことがあります。
しかし、リーダーも人間です。腹が立つこともあります。不安になることもあります。焦ることもあります。落胆することもあります。
マインドフルネスで感情をなくすことが目的ではありません。たとえば、部下の報告を聞いて苛立ったとき、「苛立ってはいけない」と感情を押さえ込むのではなく、「私は今、苛立っている」と気づく。そのうえで、「この苛立ちのまま話すと、どんな言葉を使いそうだろう」と、自分の次の行動を見ることができます。
感情を持たないことではなく、感情があることに気づきながら、どう関わるかを考える。ここに、マインドフルネスをリーダーシップに生かす一つの接点があります。
「すぐに答えること」が、いつも助けになるとは限らない
部下から相談されたとき、リーダーは答えを求められることがあります。経験があれば、「こうすればいい」とすぐに答えられることもあるでしょう。それ自体が問題なのではありません。
しかし、いつもリーダーがすぐに答えを出していると、関係の中で別のことが起きる場合があります。
こうした循環が起きているとすれば、「主体性のない部下」と「指示を出す上司」を別々に見るだけでは、十分ではありません。
二人の関わりによって、同じパターンが繰り返されている可能性も見る必要があります。
リーダーは、チームの外にいるわけではない
組織の問題について話すとき、「部下が発言しない」「メンバーに主体性がない」「チームのコミュニケーションが悪い」といった言葉が使われることがあります。こうした表現では、問題の原因が、自分ではなく部下や他のメンバーにあるように捉えてしまうことがあります。
しかし、リーダー自身もそのチームの相互作用に参加しています。
- 誰かが意見を言ったとき、どう反応するのか
- 失敗を報告されたとき、何を言うのか
- 相談されたとき、すぐ答えるのか、問い返すのか
- 反対意見を聞いたとき、どのような表情や態度になるのか
こうした日々の関わりも、チームで起きていることの一部です。リーダーの関わりと、チームで何が言いやすく/言いにくくなるかという視点については、心理的安全性とは?「意見を言える職場」を関係性から考えるでも扱っています。
だからこそ、リーダーシップを考えるときには、「相手をどう動かすか」だけではなく、「自分も、この関係やチームで起きていることの一部である」という視点が重要になります。
自分への気づきから、関係へ視野を広げる
マインドフルネスでは、自分の注意や思考、感情、身体感覚など、今起きている経験に気づくことを大切にします。リーダーシップの場面でも、まず自分に起きていることを見ることができます。
- 「今、私は焦っている」
- 「この人の話を聞く前から、答えを決めていた」
- 「反対意見を聞いて、すぐに否定したくなった」
- 「この人なら大丈夫だろうと決めつけていた」
そこで終わる必要はありません。次に、「自分の反応は、相手にどう伝わっているだろう」「この関わり方によって、相手は次にどんな行動を取りやすくなるだろう」と、関係へ視野を広げることができます。相手の話を聞きながら自分の反応に気づき、自分と相手のあいだを見るというプロセスについては、マインドフル・コミュニケーションとは?「話す・聞く」の前に気づくことで詳しく扱っています。そしてさらに、「このチームでは、どんな行動が繰り返されているだろう」と見ることもできます。
この記事では、マインドフルネスとリーダーシップの接点を、このような視野の広がりとして考えています。
「よいリーダー」になるためのチェックリストではない
ここまで読むと、「では、マインドフルなリーダーになるには、何をすればよいのか」と思うかもしれません。
しかし、いつも冷静である。人の話を最後まで聞く。感情的にならない。部下に共感する。すぐに答えを出さない。といった項目を並べ、それを守れば「マインドフルなリーダー」になる、という話ではありません。
状況によっては、すぐに判断する必要があります。明確な指示を出す必要もあります。問題を厳しく指摘する必要もあります。
大切なのは、特定の行動をいつも選ぶことではなく、自分が今どのような状態で、何を見て、どのように反応しようとしているのかに気づくことです。そのうえで、その状況に必要な行動を考えます。
研究では、リーダーのマインドフルネスについて何が分かっているのか
リーダーのマインドフルネスについては、研究も蓄積されつつあります。
Zhouらが2022年に発表したメタ分析では、54の独立したサンプル、9,414人のリーダーを対象とした研究が統合されました。その結果、リーダーのマインドフルネスは、リーダー自身のウェルビーイングや仕事上のアウトカムだけでなく、リーダーシップのあり方やリーダーと部下の関係、部下のウェルビーイングや仕事上のアウトカムなどとも関連していました。
ただし、ここで注意したいのは、「関連がある」ことと「マインドフルネスが原因である」ことは同じではないということです。
このメタ分析では、リーダーを対象としたマインドフルネス介入についても検討されています。介入を受けたグループでは実施前後でリーダーのマインドフルネスの指標に差が見られましたが、介入後の対照群との比較では統計的に有意な差は確認されませんでした。
さらに、2025年に公表されたDonaldらのメタ分析では、リーダーのマインドフルネスと部下へのリーダーシップ行動、部下のウェルビーイングやパフォーマンス、リーダーと部下の関係などが検討されています。リーダーのマインドフルネスと部下のアウトカムとの間には全体として正の関連が報告されていますが、横断的な相関研究に比べ、時間を追って調べた縦断研究では関連が小さくなっていました。
こうした研究から、リーダーシップにおけるマインドフルネスは研究する価値のあるテーマであることは分かります。一方で、「マインドフルネスを実践すれば、よいリーダーになる」と単純に結論づけることはできません。
「マインドフル・リーダー」という完成形を目指さない
「マインドフル・リーダー」という言葉からは、冷静で、思慮深く、共感的で、人の話をよく聞き、適切な判断ができる、理想的なリーダー像を想像するかもしれません。
しかし、そのような完成された人物像を目指すことが、マインドフルネスの目的ではありません。リーダー自身も、気づかないことがあります。感情的に反応することがあります。思い込みで判断することがあります。あとから、「別の聞き方があったかもしれない」と気づくこともあります。
重要なのは、常に理想的に振る舞うことではなく、自分の反応や関わり方に気づき、そこからもう一度状況を見ることができることです。
リーダー個人だけを変えても、組織の問題が解決するとは限らない
リーダーの自己認識や関わり方は、チームを考えるうえで重要な要素です。しかし、組織で起きている問題をすべてリーダー個人のマインドフルネスへ還元することにも注意が必要です。
たとえば、以下のような問題は、一人のリーダーが自分の反応に気づくだけでは解決しません。
- 意思決定の権限が曖昧である
- 過度な業務量がある
- 評価制度が望ましい行動と矛盾している
- 部署間で利害が対立している
- 必要な情報が共有されない
マインドフルネスは、組織の制度や構造を置き換えるものではありません。
リーダー自身への気づきが必要な場面もあれば、関係について話し合う必要がある場面もあり、仕事の仕組みや組織制度そのものを見直す必要がある場面もあります。個人から関係・チーム・組織へ視野を広げる視点については、企業のマインドフルネス研修を「セルフケア」で終わらせないためにでも扱っています。組織要因を個人の問題に還元しない視点については、職場ストレスはなぜ生まれる?個人と組織の両面から考えるでも詳しく扱っています。
リーダーを見ることと、組織を見ること。その両方が必要です。
まとめ|人を見るリーダーが、まず自分にも気づく
リーダーは、人を見る仕事をしています。部下の行動を見る。チームの状態を見る。仕事の進捗を見る。問題を見つけ、判断し、働きかける。
そのとき忘れやすいのが、見ている自分自身も、その場にいるということです。
相手の行動を見て、自分は何を感じたのか。何を事実だと思い、どこからが自分の解釈なのか。どのように反応しようとしているのか。その反応は、相手との関係にどのような影響を与えているのか。そして、自分も含めて、このチームでは何が繰り返されているのか。
マインドフルネスとリーダーシップの接点を考えることは、「理想的なリーダーになる方法」を探すことだけではありません。
人を見る自分自身にも気づき、そこから関係やチームへと視野を広げていく。この記事では、そこからマインドフル・リーダーシップを考えています。
