マインドフルネスは、個人が自宅で行う瞑想だけでなく、企業や組織でも取り入れられるようになっています。企業向けのマインドフルネスについて調べると、国内外のさまざまな企業名が「導入事例」として紹介されています。

そこで気になるのが、「企業では、実際に何をしているのだろう?」ということではないでしょうか。

同じ「マインドフルネス導入」と呼ばれていても、その内容は同じではありません。ストレスへの対処を目的とした研修もあれば、管理職やリーダーを対象としたもの、コミュニケーションやチームづくりと組み合わせるものもあります。また、一度だけ体験する研修と、一定期間継続して実践するプログラムでも意味は異なります。

この記事では、企業名を並べるだけではなく、企業ではマインドフルネスがどのような目的と方法で取り入れられているのかを整理しながら、自社で導入するときに考えたいポイントまで見ていきます。

企業でマインドフルネスが取り入れられている

マインドフルネスは、医療や心理学の領域だけでなく、職場を対象とした研究や実践にも広がってきました。

職場で行われるプログラムには、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)をもとにしたものもあれば、職場向けに時間や内容を調整したプログラム、マインドフルネスと他の方法を組み合わせたものなどがあります。

対象者も一般社員だけとは限りません。管理職、リーダー、特定の職種、組織全体、希望者など、企業によって対象も方法も異なります。

そのため、「マインドフルネスを導入している企業」という言葉だけでは、実際に何が行われているのかまでは分かりません。働く中でマインドフルネスがどのように関わるのかについては、仕事とマインドフルネス|働く中で「気づくこと」は何を変えるのかでも紹介しています。

POINT

企業のマインドフルネス導入を見るときは、「導入しているか」だけでなく、何を目的に、誰を対象として、何を行っているのかを見ることが大切です。

※「導入しているか」だけでは、実際に何が行われているのかは分かりません。

企業がマインドフルネスを取り入れる目的は一つではない

企業がマインドフルネスに関心を持つ背景には、さまざまな課題があります。

たとえば、ストレスやメンタルヘルスへの対応。情報量の増加やマルチタスクの中で、注意をどのように扱うか。感情的になりやすい場面で、自分の反応に気づくこと。部下や同僚とのコミュニケーション。管理職やリーダーとして、自分の状態や判断の癖に気づくこと。こうしたテーマは、いずれもマインドフルネスと接点を持つ可能性があります。

一方で、「マインドフルネスを導入すれば、これらすべてが改善する」ということではありません。

企業が導入を考えるときには、まず、「自社では、なぜマインドフルネスを取り入れたいのか」を明確にすることが重要です。

企業での導入方法にも、さまざまな形がある

企業でマインドフルネスを取り入れる方法は、一つではありません。

たとえば、初めてマインドフルネスに触れる社員を対象に、60分から数時間程度の体験研修を行うことがあります。一定期間、複数回の研修を行い、実践と振り返りを繰り返す方法もあります。オンラインで短時間の実践機会を設けることもできます。

管理職やリーダー向けのプログラムとして、自分の反応への気づきとコミュニケーションを組み合わせることも考えられます。さらに、対話やチームワーク、組織開発のプログラムの中に、マインドフルネスの実践を取り入れる方法もあります。

どれが正しいということではありません。目的、対象者、時間、組織の状況によって、適した設計は変わります。

海外企業の事例を見るときに、注意したいこと

マインドフルネスの企業事例としては、海外の大手企業が紹介されることが少なくありません。こうした事例は、「企業の中でどのような取り組みが可能なのか」を考える参考になります。

一方で、企業名だけが独り歩きすることにも注意が必要です。

たとえば、「A社が導入している」という情報があったとしても、それだけでは、誰が参加したのか、何人が参加したのか、どのくらいの期間行ったのか、参加は任意だったのか、どのような内容だったのか、その後も継続しているのか、どのような結果が得られたのか、までは分かりません。

さらに、その企業で行われた取り組みが、別の企業でも同じように機能するとは限りません。企業文化、職種、働き方、参加者、経営環境などが違うからです。

企業名は「効果の証明」ではなく、「どのような実践が試みられてきたか」を知る手がかりとして見る必要があります。

有名企業が導入していることと、効果があることは別

ここは、企業事例を読むうえで特に重要な点です。

ある企業がマインドフルネスを導入していることは、その企業が何らかの目的でプログラムを実施したことを示します。しかし、「導入した」ことと、「そのプログラムによって、ある成果が生じたことが研究によって確認された」ことは同じではありません。

企業自身が紹介する導入事例、研修会社が紹介する事例、参加者の感想、社内アンケート、比較対照を置いた研究、ランダム化比較試験、複数の研究をまとめたメタ分析。これらは、それぞれ異なる種類の情報です。

どれか一つだけが価値を持つということではありません。参加者の声から分かることもありますし、現場の事例だからこそ分かることもあります。

ただし、「参加者から好評だった」ことを、「効果が科学的に証明された」と置き換えることはできません。

職場のマインドフルネス研究では、何が分かっているのか

職場で行われるマインドフルネス・プログラムについては、多くの研究が行われています。

研究から:職場のランダム化比較試験のメタ分析

Vonderlinらが2020年に発表したメタ分析では、職場で実施されたランダム化比較試験56報を分析し、ストレス、バーンアウト、心理的苦痛、ウェルビーイングなど、複数の領域について検討しています。全体として、健康やウェルビーイングに関する複数の指標で介入群に有利な結果が報告されました。一方、仕事そのものに関する指標を扱った研究は比較的少なく、著者らは仕事へのエンゲージメントや生産性などについて、さらに研究が必要だとしています。

その後の研究も増えています。

研究から:職場の介入研究のレビュー

Michaelsenらによる2023年のレビューでは、91研究が対象となり、ストレス、ウェルビーイング、メンタルヘルスなど幅広い領域について結果が整理されました。ここでも複数の領域で一定の変化が報告されていますが、プログラムの内容、研究方法、対象者などには違いがあります。

つまり、「企業のマインドフルネスには効果がある」と一括りにするより、何を目的とした、どのようなプログラムについて、何が測定されたのかを見る必要があります。マインドフルネスの効果に関する研究全般については、マインドフルネスにはどんな効果がある?研究から分かっていることで整理しています。

「仕事のパフォーマンスが上がる」とは、まだ簡単には言えない

企業がマインドフルネスに関心を持つ理由の一つに、仕事のパフォーマンスがあります。しかし、ここは特に慎重に考える必要があります。

研究から:仕事・学業のパフォーマンスとの関係

Vainreらが2025年に発表したシステマティックレビュー・メタ分析では、99研究、16,054人を対象として、マインドフルネス・ベースド・プログラムと仕事・学業上のパフォーマンスとの関係が検討されました。何も行わない受動的対照群との比較では、課題パフォーマンスについて小さな差がみられました。一方、仕事のパフォーマンスを改善するための別の介入を行った能動的対照群との比較では、明確な差は確認されませんでした。さらに、著者らはレビュー結果全体の確実性を「very low」と評価しています。

したがって、「マインドフルネス研修をすれば生産性が上がる」と企業に約束できる段階ではありません。

POINT

企業のマインドフルネス研究では一定の知見が蓄積されていますが、ストレス、ウェルビーイング、仕事のパフォーマンスなど、扱うアウトカムによって研究の蓄積や確実性は異なります。

研究の多くは「個人」を見ている

もう一つ、企業でマインドフルネスを考えるときに重要な点があります。それは、これまでの研究の多くが「個人」を対象としてきたことです。

研究から:職場のマインドフルネス研究の20年

Stuart-Edwardsらは、2003年から2022年までの職場のマインドフルネス研究217報をレビューし、研究の発展には偏りがあり、特に個人レベルのマインドフルネス研究が大きく増えてきたことを報告しています。一方、チームレベルのマインドフルネスや、異なるレベル間の相互作用などは、今後さらに研究が必要な領域として挙げられています。

これは、企業でマインドフルネスを導入するときにも重要です。

個人のストレスが減ったか。個人のウェルビーイングがどう変化したか。個人の注意や感情がどう変化したか。こうした問いと、チームの関係がどう変化したか、会議での対話がどう変化したか、組織の文化や仕組みがどう変化したか、という問いは、同じではありません。

個人へのマインドフルネス研修を行ったからといって、チームや組織が自動的に変化するとは言えません。

企業事例を「個人への研修」で終わらせないために

企業でマインドフルネスを導入するとき、最初の入口が個人への研修になることは自然です。

自分の呼吸に注意を向ける。身体の状態に気づく。思考や感情に気づく。自分がどのように反応しているのかを見る。こうした実践は、一人ひとりが自分自身を知る機会になります。

しかし、仕事で起きている問題がすべて個人の中にあるわけではありません。仕事量が多すぎる。役割が曖昧になっている。相談しにくい。上司と部下の間で認識がずれている。会議で特定の人しか発言しない。失敗を報告しにくい。こうした問題に対して、「一人ひとりがマインドフルになりましょう」だけでは十分ではありません。

自分への気づきを入口に、「私と相手の間で、何が起きているのだろう」「このチームでは、何が繰り返されているのだろう」「この行動を生み出している職場の仕組みはないだろうか」と視野を広げることもできます。

個人への働きかけと、組織への働きかけを分けて考える

個人

自分の状態への気づき
ストレスへの対処
注意
感情や反応への気づき

関係

対話
コミュニケーション
上司と部下
チームの相互作用

組織

仕事量
役割
制度
職場環境
組織文化

※上下や優劣を示すものではありません。3つは互いに影響し合っており、課題がどこにあるのかを見るための整理です。

企業のマインドフルネスを考えるときには、個人への働きかけと、関係性や職場環境への働きかけを区別しながら、必要に応じてつなげていくことが大切です。研修の設計についてさらに詳しくは企業のマインドフルネス研修を「セルフケア」で終わらせないためにで、個人から関係性・組織へと視野を広げる考え方はマインドフルネスと組織開発|「個人を整える」から「関係性と組織を見る」へで扱っています。

ストレス対策として導入するなら、職場環境も見る

たとえば、ストレス対策を目的としてマインドフルネスを導入するとします。呼吸瞑想やボディスキャンなどを通して、自分の身体や感情の変化に気づくことはできます。

しかし、社員が強いストレスを感じている理由が、慢性的な長時間労働、過大な業務量、役割の曖昧さ、ハラスメント、不公平な評価、相談できない職場環境にあるのであれば、個人への研修だけでは問題は解決しません。

マインドフルネスが、「つらい環境でも耐えられる社員をつくる方法」になってしまっては、本来見る必要のある職場の課題が見えにくくなる可能性があります。

社員のセルフケアを支援することと、働く環境を改善することは、どちらか一方を選ぶ話ではありません。

職場ストレスについては、職場ストレスはなぜ生まれる?個人と組織の両面から考えるでも詳しく扱っています。

リーダー向けなら、「部下を変える方法」にしない

管理職やリーダーを対象としたマインドフルネス研修も考えられます。ここで重要なのは、「マインドフルネスを使って、部下をうまく動かす」という発想だけにしないことです。

たとえば、部下から予想外の意見を言われたとき。すぐ否定したくなる。自分の判断を説明したくなる。不安になる。腹が立つ。そうした自分の反応に気づくことができます。

さらに、その反応が相手との関係にどう影響しているのか、同じやりとりがチームで繰り返されていないか、まで視野を広げることもできます。

マインドフル・リーダーシップについては、マインドフル・リーダーシップとは?自分の反応に気づくことから考えるで詳しく解説しています。

コミュニケーション研修なら、「聞き方」だけにしない

マインドフルネスとコミュニケーションを組み合わせることもできます。相手の話を丁寧に聞く。話の途中で遮らない。すぐに評価しない。こうしたことも大切です。

しかし、マインドフル・コミュニケーションは、単なる「聞き方の技術」だけではありません。相手の話を聞いているときに、自分は何を考えているのか、どんな感情が生じているのか、何を言いたくなっているのか、相手をどのように評価しているのか。そうした自分自身の反応にも気づいていきます。

さらに、「今、この人との間で何が起きているのだろう」と関係そのものを見ることもできます。

企業研修では、マインドフルネスの実践と対話やグループワークを組み合わせることで、こうした気づきを仕事の場面へつなげる設計も考えられます。詳しくはマインドフル・コミュニケーションとは?「話す・聞く」の前に気づくことで扱っています。

単発研修にも、継続プログラムにも役割がある

企業研修では、「単発では意味がないのでしょうか」という疑問もあります。

単発研修には、単発研修の役割があります。初めてマインドフルネスを知る。実際に体験してみる。自分の状態に気づくという視点を知る。組織の中で共通の言葉を持つ。こうした入口をつくることができます。

一方、マインドフルネスは、説明を一度聞けば身につく知識だけではありません。実践する。日常で試す。何が起きたか振り返る。また実践する。という経験を重ねることで、自分なりの理解が深まっていく側面があります。

そのため、目的によっては複数回の研修や、研修後に実践を続けられる仕組みを設けることも考えられます。

重要なのは、「単発か継続か」を先に決めることではなく、何を目的として、そのためにどの程度の時間と機会が必要なのかを考えることです。

導入前に考えておきたい5つのこと

企業の事例を参考にしながら、自社での導入を考える場合には、少なくとも次の5つを整理しておくとよいでしょう。

1.なぜ導入するのか

ストレス対策なのか。管理職育成なのか。コミュニケーションなのか。ウェルビーイングなのか。まず目的を言葉にします。

2.誰を対象にするのか

全社員なのか。希望者なのか。管理職なのか。特定のチームなのか。対象によってプログラム設計は変わります。

3.個人の課題と組織の課題を混同していないか

研修で扱えることと、制度や仕事の仕組みとして改善すべきことを分けて考えます。

4.研修のあと、職場で何をするのか

研修中に良い体験をすることだけでなく、その後の日常や仕事でどう活かすのかを考えます。

5.何を見て振り返るのか

参加者の満足度だけなのか。実践が続いているか。仕事の中でどのような気づきがあったか。関係性や行動にどのような変化があったか。目的に応じて、振り返るものも変わります。

「成功事例をまねる」より、自社の課題から考える

企業事例を調べると、どうしても有名企業の取り組みに目が向きます。しかし、他社のプログラムをそのまま持ってきても、自社に合うとは限りません。

たとえば、社員が疲弊している会社、部署間の連携に課題がある会社、管理職のコミュニケーションを見直したい会社、変化の大きな環境で働いている会社。それぞれ、必要なことは違います。

マインドフルネスを導入すること自体を目的にするのではなく、「今、この組織では何が起きているのか」から考える。

そのうえで、マインドフルネスが役に立つ部分はどこか、対話が必要な部分はどこか、制度や仕事の仕組みを変える必要がある部分はどこか、を見ていく方が、企業での取り組みを設計しやすくなります。

Layの企業向けマインドフルネス研修

株式会社Layでは、企業や組織の課題に応じて、マインドフルネスを取り入れた研修・プログラムを提供しています。扱うテーマは、ストレスへの対処、集中力、コミュニケーション、管理職・リーダーシップ、ウェルビーイングなどさまざまです。

研修では、マインドフルネスについて知識として学ぶだけでなく、呼吸や身体感覚に注意を向ける実践、対話、グループワーク、振り返りなどを組み合わせます。

また、マインドフルネスを個人のセルフケアだけに閉じず、自分自身への気づきから、他者との関係、チーム、組織で起きていることへと視野を広げていくことを大切にしています。

企業ごとに課題や対象者は異なるため、既成のプログラムをそのまま当てはめるのではなく、目的や状況を確認しながら内容を設計します。

まとめ|企業事例は、「自社ならどうするか」を考えるために見る

企業のマインドフルネス導入には、一つの形があるわけではありません。ストレス対策、ウェルビーイング、注意や集中、コミュニケーション、リーダーシップ。企業によって、目的も対象者も実施方法も異なります。

職場のマインドフルネスについては研究も蓄積され、ストレスやウェルビーイングなど複数の領域で一定の知見が報告されています。一方、仕事のパフォーマンスについては研究上の不確実性も残っています。また、これまでの研究は個人レベルに偏っており、個人への研修によってチームや組織まで自動的に変わるとは言えません。

だからこそ、企業事例を見るときには、「どの有名企業が導入しているか」だけではなく、「何を目的として、誰に、どのような働きかけを行っているのか」を見ることが重要です。

そして、自社で導入するときには、「今、この組織では何が起きているのか」から考える。個人への働きかけが必要なのか。関係性への働きかけが必要なのか。仕事の仕組みや制度を見直す必要があるのか。その中で、マインドフルネスがどのような役割を担えるのかを考えていく。

企業事例は、その答えを他社から借りるためではなく、自社に合った問いを見つけるための材料として活用することができます。